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潮騒のファミリー(12)(side 凪桜)

自分も小さい頃は真似をして絵を描いた。仮面ライダーは描いたような記憶がある。何回も何回も同じ絵を描いたのは子ども時代って時間があるからなのかもしれないと思った。きっとこの子達もたくさんの落書き帳を使って傑作を残していくんだろう。 僕のお絵かきはなぜか額に入れられて飾られたようだ。玄関に?! それなら違う絵にして欲しい気もする。いずれちゃんと描いた絵を贈ればいいのか。真誠さんと相談しよう。 たくさんの手であっという間に片付けられたテーブルにモンブランと紅茶が並ぶ。すると今まで挨拶もそこそこしか出来なかったお父さんをが口を開いた。 「真誠。あなたは凪桜さんと結婚する覚悟で一緒に暮らすのか」 お父さんの一声でケーキに盛り上がる家族が静まり返った。 結婚……その言葉は僕にとって全く他人事のように思えた。人間関係を深く結ぶと言う言葉なのだろうけど、あくまでも形式であるという認識は変わらない。想い合う相手と結婚という形をとるのもとらないのも自由だ、と思ってる。 一緒に居たい理由なんてわからないし言葉にできるものなのかわからない。それが結婚という言葉に込められるものなのか。覚悟ってなんだろう。今日、不安になったあの気持ちは覚悟出来てないってことなのか。 でも 「うん。彼と家族になりたい」 と、真誠さんが言った時、あの時も家族になりたいって言ってたのを思い出した。 ああ、その言葉で伝えるのもいいなと思った。さすがだ、言葉にするのやっぱり上手なんだ。僕にその返事ができたかと言えばきっと出来なかったと思う。 僕と真誠さんの間にある何かはきっと言葉に出来ないものだと思う。でも、家族に伝えるにはすごくピッタリだ。 「ありがとう、真誠さん」 静かに周りで見守ってた他の家族の口からは「おめでとう」とか「公開プロポーズ?!」とか「凪桜ちゃんは家族になるの?」とか訳の分からない謎の呪文とか色々飛び交って僕と真誠さんは視線を合わせて笑い合った。 「僕の両親はもう亡くなってて、弟しか家族はいません。もちろん弟達も自立しているからいつも一人でいた所に真誠さんと出会って、しばらく文通してだんだん真誠さんを知るようになりました。今までひとりのほうがラクだと思っていて誰かと一緒に居ようなんて思わなかったんです。でも真誠さんと一緒にいたい。僕も家族になりたいと思っています」 真誠さんは耳まで真っ赤でお母さんやお姉さんや妹達にバンバン叩かれ「やめろー」と小さく抵抗していてかわいい。 「なに、マコは文通してたのー? 変な子たちねぇー!!」 「どっちから付き合おうっていったのっ?!」 「王子はもてもてだからライバルいっぱいいるんじゃないの」 「凪桜ちゃーん、今度は王子様の絵ー書いてー」 「凪桜さんの好きな食べ物は何?!」 再開した飛び交う声の下で僕は、この後真誠さんと何をしようか考えながらモンブランにフォークを刺した。

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