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潮騒のファミリー(14)(side 凪桜)
真誠さんの家族はふざけているようだけどみんな真誠さんのことを思っていて、お父さんは無口だけどちゃんと理解して分かってくれている。来てよかったなと思う。
賑やかすぎて何が何だかわからない嵐に突っ込んだみたいだったから、見送られて二人になるとなんとなく言葉は少なくなる。
電車を降りて、この前も通った川沿いの道をどちらからともなく手を繋いで歩いた。
真誠さんの部屋の前に置いてあった引越し用のダンボールを持って部屋に入ると、一度しか来ていないのによく知ってる場所に感じる。
テキパキとダンボールを組み立て、荷物を詰め込んでいく真誠さんを見ていたらなんでここに居るのだろうと自分の抜け殻を別の自分が見ているような感覚になった。
お風呂に入ってと勧められてもその言葉は僕の上を滑って通り過ぎていく。
そんな僕の様子に気付いた真誠さんが話しかけてきて少し混乱し「本当に来るのか」と真誠さんを試すような言葉が口からどんどん出てくる。肩を抱かれても僕のネガティブな気持ちが止まらなくて
「どうしたの? 俺と暮らすのは気が重くなってきちゃった? だったら、凪桜さんの家の近くに物件を探すよ。それもダメ? 今のまま愛知と東京の距離の方がいい?」
と言われた時に一気に不安が流れ出した。
「変なこと言うけどごめん。
好きあったもの同士が素晴らしい家族から祝福されて貧しい田舎で暮らし始める。
最初は盛り上がってるけどやっぱり賑やかな街や家族が恋しいとか来なきゃよかったとか思うようになって二人の関係がギクシャクする、そんな昔話のテンプレートみたいなことを真面目に考えてるのかもしれない。
真誠さんに田舎は似合わない。僕のことだってどうでも良くなるかもしれない」
スラスラと出てくる言葉が自分の言葉ではないようで気持ち悪い。
「そう考えるのはさ、凪桜さんはそれだけ俺のことを思ってくれてるってことでしょ」
「……」
そうだと思う。僕は真誠さんと一緒にいたい。
「俺は凪桜さんが嫌だって言うなら離れる。でも、そうじゃなかったら絶対離さない。嫌いになる前に気に入らないところは言って。直すから」
真誠さんはずっと僕のことを考えてそれでいて自分の気持ちも伝えてきてくれてる。どうして素直に受け取れないんだろう。
「真誠さんのほうが僕のことを嫌になるかもしれないし、僕じゃなくてあの家とか土地とか田舎の面倒くささとか嫌になるかもしれないし」
なぜかどんどん嫌な理由を思いついて並べてしまう。僕自身そう思って生活していて不満があるのかもしれない。諦めている何かを吐き出しているのか、それとも自分と同じような気持ちを真誠さんに感じさせることが嫌なのか。
「凪桜さん、変なふうに聞こえるかもしれないけと聞いて。たぶんこの不安は世間で言うマリッジブルーだ。環境や生活が変わるから不安になるんだよ」
「僕の暮らしは変わらないよ」
「俺か行くからそれだけでも生活リズムが崩れて自由な時間が無くなるかもしれないよ。でもそういうのを上手くやっていけるくらい俺たちは大人だと思うし、俺は凪桜さんに俺と居る方が幸せって思ってもらえるようにしたい、そう言うことじゃだめかな。納得出来ない?」
よく分からなくなってるけど、変わらない気持ちだけ答えることにした。
「真誠さんと一緒にいたい、それだけは本当だから」
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