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潮騒のファミリー(17)(side 真誠)*

 凪桜さんは、俺が今まで見た中で一番エロい顔をしていた。  舌をめいっぱい伸ばして俺の舌を絡めとって、鼻にかかった声を洩らしながらなおも擦りつけるように脚を開き、腰を押しつけてくる。  二人の怒張は片手では握り込めない程に大きくなってて、俺は凪桜さんの手も導いた。  凪桜さんは一人のときもそうするのか、側面を撫でるだけでなく、先端をするんするんとつまむようにしたり、可愛がるように撫でたりもした。ちょっと我慢できないくらいのピリピリした気持ちよさが内側から刺してくる。  俺はときどき薄目を開けて見ているのに、凪桜さんは口を開けてはあはあと熱い息を吐き、ときどきこくんと唾液を飲みながら目を閉じて夢中になっていて、自分のエロさを全然隠してなかった。  あんなに恥ずかしそうに誘ってきたくせに、俺のほうが気圧され気味だ。  凪桜さんは舌で俺の口内を蹂躙しながら、二人の茎を手で撫で回し、反対の手は俺の胸を撫でて、見つけた突起を指先でなぶる。  気持ちいい刺激しかなくて、俺は恥ずかしいくらいたくさん声を上げた。 「んっ、あ、ふあっ……ああ……」  声を上げるほどに凪桜さんの指は喜び勇んで動いて、俺は余裕をなくして口を外した。天井に向かって喘いでいると、晒した首に凪桜さんの舌が這い、そっと歯を立てて喉笛を噛み切る真似までする。  この人になら、殺されてもいいかな。  そんな文学や思想に親しんだことはないけど、苦しいくらいの快楽に責められて、ちょっとだけドストエフスキーじみたことを考えた。  外側からあたためるような快楽と、血管の内側から刺すような快楽で、気づけば俺の手は止まり、凪桜さんの手が二人の興奮を扱いていた。  俺は浴室のぼんやりした電灯に照らされた睫毛の影とか、尖っている乳首とか、そういう清潔で美しく見える凪桜さんの手の中で、赤黒く怒張している男の姿に、不意に浮遊感を覚えた。 「あ、いきそうっ」 「いいよ。僕は……もう少し……」 熱い息を吐きながら言われた。本当は我慢してタイミングを合わせたほうがいいのではと思ったけど、下腹部がむず痒くなってふわりと放ってしまった。 「あ、待って。もう……」  達してくすぐったいだけになったのに、凪桜さんの手は止まらなくて、俺は逃げ出したかったけど、浴槽が狭くて身動きがとれなかった。 「ひ……っ、や、許して……っ」  凪桜さんは小さく首を横に振って、達した俺を自分と一緒に扱き続けた。 「嘘だろ……あっ、ああ……」  ごりごりと触れ合う裏側の気持ちよさや、指先で撫で回される先端のむずむずした気持ちよさに完全包囲され、俺は神経針に脊髄を貫かれるような快感を得た。 「あっ、あああああっ!」  凪桜さんがいつ達したのか、どんな顔をして達したのか、見る余裕もなかった。  気づけば湯の中に凝固した白濁が散らばっていて、凪桜さんは湯船の栓を抜き、シャワーで全身を洗い流された。 「真誠さん、途中からずっといってるみたいだった。気持ちよかった?」 「ん。なんだろう、なんか……ドストエフスキーを思い出してた」 俺の返事に凪桜さんは大笑いする。 「ドストエフスキー? ドストエフスキーを読みながらいけるの?」 「ドストエフスキーを読みながらしたことはないけど、セックスの途中の思考って歯止めが効かないし、取り留めもないから、よくわかんない」 「まぁ何が性欲を掻き立てるかなんて、人それぞれだろうけどね」 凪桜さんがシャワーを高いほうのフックに固定しながら 「小説家って面白いね」 と笑う。 「そうじゃないんだってば。ドストエフスキーに反応する訳じゃない」 俺は凪桜さんを羽交い締めにして、シャワーの雨の中でキスをした。  俺は凪桜さんに反応するんだよ。

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