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潮騒のファミリー(19)(side 真誠)
凪桜さんの体温を感じながら目覚める朝は心地いい。
昼には妹2号が来るから、その前には身支度を整えないと。でもまだ時間に余裕あるし、一回戦くらい凪桜さんにお手合わせ願えるかな。
ゆっくり瞬きをして、凪桜さんの丸めた背に頬を押し当て、腰に抱き着いて自分の昂りを押しつけようとして。不自然な場所に影ができていることに気づいた。
テレビの距離にしては近すぎる。
腕組をして見下ろしている黒髪のボブカット。黒髪の? ボブカット?
「ニコ!」
俺は慌てて飛び起き、また慌てて下半身を掛布団で抑えた。パンツどこだ、パンツ!
つま先に引っ掛かったのは凪桜さんのパンツで、それはそれで凪桜さんの手の届くところに置き、俺のパンツ!
きょろきょろしていたら、妹2号が親指と人差し指の先だけで紺色のボクサーブリーフをつまみ、猛獣へエサをやるときよりも嫌そうに顔をそむけながら、俺に向かって投げてきた。
「サンキュ」
布団の中でもぞもぞとパンツを履いて、さらに
「乳首見せんな。お兄のは見たくない」
と言われてシャツも着て、積み上げた荷物と本棚と机と椅子とハンガーラックとプラスチックの引き出しが引越し荷物であることを告げた。
「ベッドは引越し業者が同時に処分するから、ニコにはこの来客用布団をあげる。新品で誰も使ってないから、安心してどうぞ」
「あげるっていうか、押しつけるんでしょ」
「そうともいう。あとは使えるものだけ使って、好きに捨てて、好みの部屋にしてくれ。家賃は再来月からニコの口座引き落としな」
「へぇへぇ。来客用布団は用意したけど、使わなかったってか」
ニヤニヤと笑われて、俺は半歩後ずさる。
「ヨッタイキオイ、チンミ、ジタクニオウジサマヲツレコム、ソマツナヘヤガ、オウジサマヲコウフンサセテ、フロノナカデ、カブトアワセ、ダイドコロデ、タチバック、ベッドノウエデ、キジョウイ、カラノ、セイジョウイ」
「それ、全部お前の妄想だからな? 勘違いするなよ?」
妹2号がニヤニヤしているところへ、パンツとジーンズを穿いた凪桜さんがクセのある髪をふわふわさせながら歩いてきた。
「おはよう、ニコちゃん。早かったんだね」
「ちょっと『取材』もしたかったので」
サクライロ、と呟くニコの視線から守るために、凪桜さんにもシャツを着せた。
荷物の話はそれで済んで、俺たちは昼前にはすっかり身支度を整えて、玄関で靴を履いた。
「じゃあ、あとはよろしくな」
「ご迷惑お掛けします。よろしくね」
ニコは凪桜さんの挨拶にだけ、愛想よく笑顔を向けた。
「お兄」
「何だよ」
「いつでも帰って来な。仕事とか、そういうときは。おかあ、寂しがってるからさ。よければ凪桜さんも一緒に、いつでも」
「わかった」
俺は部屋の鍵をニコに渡そうとしたが、ニコは受け取らなかった。
「合鍵持ってるからいらない。一人暮らしだし、何かあったら助けに来て」
俺は頷いて鍵をキーホルダーに戻し、凪桜さんと一緒にマンションを出た。
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