103 / 161

今年も猫年(1)(side 凪桜)

月が変わって年号が変わるだけなのに、年末というのは何故か人の心をせわしくさせるようで。 「凪桜さん、大掃除する? お正月の準備もあるよね」 初めてこの家で年末とお正月を迎えるのを楽しみにしている真誠さんは、遠足前のワクワクを楽しんでいる子どものようだ。 「大掃除かー。してもいいけど、掃除は苦手だから気が進まない」 大きめの一人掛けソファ、真誠さんは僕の足の間に座ってこたつ代わりに電気毛布を足にかけ録画してあった宇宙の不思議を解説する番組を見ている。 カゴからみかんを一つ取ると回しながら軽くもんで剥き始めた。みかんを剥くと半分を必ず僕に渡してくる。ある時僕が「同じ味のみかんはない」って言ったらそれから必ず半分こになった。 「俺が手伝うから、気になるところがあったらやろうよ」 「うーん……じゃあ真誠さんが気になるところをやろうか」 僕は消極的な返事をして電気毛布の端に乗ってきたチャビを眺めた。暖かくて眠くなってくる。チャビは丸くなって寝る体勢だ。 「凪桜さんはお正月におせちとか食べる?」 「うーん、最近は何もしてないなぁ。たまに弟が来ても別に普通のごはんしか食べないかも」 軽く眠気と戦いながら真誠さん、実家のお正月が恋しいのかなと想像した。絶対あの家ならおせちも肉も沢山出てきそう。お餅もどんな数になるのか考えただけでお腹いっぱいになる気がした。 「前は食べてた?」 「おばあちゃんと作ってたよ。おせち、なんか作る? それとも実家に帰る?」 僕は三が日は家にいたい。もし帰るなら申し訳ないけど真誠さんだけ帰ってもらう。 「え? 作れるの?」 「簡単なのならね、煮しめ、黒豆、金団、紅白なます」 食べたいものしか作れない、あと簡単なの。食べたいけど手が込んでいるものは買う。 「そんなに出来るならそれがいい! 手伝うから作ろうよ」 真誠さんはあまり自炊をしなかったみたいで、何か作るとすごく喜んでくれて作り方を覚えようとしている。既に何品か覚えてるから、もし僕が寝込んでも大丈夫かな。 「わかった、じゃあ年末はおせちを作って元旦からだらだらしよう。昔ながらのお正月を楽しもう」 小さく「やった」と呟きテレビの画面に目を移した真誠さんの髪がけっこう伸びている。床屋さんか美容院に行かなくていいのかなと気になった。 「真誠さん髪は切らなくていいの?」 真誠さんはこめかみ辺りから手を髪に差し込んで 「伸びてるけどどうしようかな。凪桜さんはどうしてるの?」 「僕は適当に自分で切るか、たまに美容院にいくかな」 でももう1年くらい美容院には行ってない。行くのが億劫だから、つい自分で切ってしまう。 「じゃあ俺の髪も切ってよ」 真誠さんはみかんを半分僕に手渡しながら当たり前のように言うから 「いいよ、いつ切ろうか?」 と、いつも切ってるみたいに答えた。

ともだちにシェアしよう!