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今年も猫年(2)(side 真誠)

 小説でもマンガでも、家族の髪を切る描写に憧れていた。 「ねぇ、凪桜さん。髪の毛は庭で切る?」  好きなマンガのシーンを思い出して、わくわくしながら聞いてみたけど、 「今日は縁側かな、寒いし」 という返事で、師走だもんなぁと納得した。  渡されたタオルを首に巻いて待っていると、凪桜さんはヘアカット用のポンチョ、しかも切った髪がこぼれないよう縁に円形の針金が入って裾が反り返るという、スグレモノを持って現れた。  このポンチョを首に巻きつけると、両手を反らしたおしゃまなクラゲみたいな風貌になる。  凪桜さんが道具を揃えるために家の中をうろうろしている間、俺は一人でぽよぽよ上下に揺れて、クラゲの気分を味わってみた。楽しい。  チャビ様が先に早足でやって来て『凪桜が来るよ』と教えてくれたので、俺は何事もなかったように縁側に座って、のんびり冬の空を見ているふりをした。  凪桜さんは俺の髪を手で触って確かめると、何か所かヘアクリップで留めて、いきなり梳き鋏でじゃきじゃき、じゃきじゃきと俺の髪を切り始めた。  その切り方には上下左右のような規則性がなく、伸びすぎたところだけ切り落とされる盆栽のような気持ちになる。  その思い切りのよさには多少驚いたし、しかもだいぶ切ってから 「うーん」 なんて俺の頭を両手で動かしてデザインを考えているふうだったので、ますますどんな仕上がりになるのか不安になったけど、目の動く範囲では、何がどうなっているのか、よくわからなかった。 「こんなもんかな」 頭を撫でるようにして切った髪を払い落としつつ、独り言のように言われておしまいになった。  あと片付けをして、風呂場で全身を洗い流し、ドライヤーをあててみると、ちゃんと短くなっていた。特に禿げてもいなかったし、襟足に飛び出した数本は、凪桜さんがちょきんと切ってくれた。  理髪店に行ったときのようなきっかりとした整い方ではなく、自然に仕上がっていて、これはいいと思った。 「ありがとう、凪桜さん!」  気に入ってチャビ様に見せに行ったら、「にゃあ」と言ってくれたので、合格なんだろう。  凪桜さんの好きな物だけで構成されている家の中で、俺も凪桜さんに手入れをしてもらい、ますますこの家の住人になったなぁと思った。

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