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今年も猫年(3)(side 凪桜)

いつも突然やってきて「髪を切りたい」という弟達。最近はさすがに来なくなった。お嫁さんに床屋をすすめられるのか、格安の床屋も出来たりしてわざわざウチに来るのも面倒なのか。 縁側で椅子に座った真誠さんにヘアカット用のケープをかぶせてからクシを探しに行った。チラッと見えた真誠さんはフワフワ動くケープを楽しむように体を揺らしている。見なかったふりで真誠さんの後ろに立った。 しっかりしてるけどほどよくしなる髪質。梳きバサミでザクッとカットして後は長さを整えながら普通のハサミでカットする。全くの自己流でおばあちゃん家のポメラニアンの毛をカットしてる時も同じようにやっていた。決して犬と同じと言ってる訳では無いけれど。 僕の好みは「今日髪を切ってきたよ」ってわからない感じ。なんとなく角がハッキリしてたり遊びのない感じは落ち着かない。 真誠さんは乾かした髪をさわり鏡をみてチャビにも見せた。よかった、気に入ってくれたようだ。 「買い物に行こう」 真誠さんのリクエストのおせちを作るためと、お正月の間外に出なくていいようにするため。お風呂上がりで冷えないように真誠さんに暖かいマフラーを巻き付けて、車に乗った。 「真誠さんにとってお正月って何が必要?」 「いつも実家であの騒ぎに巻き込まれて疲れて帰るだけで、特別なことは何も。だから凪桜さんに任せてもいい?」 「僕も一人ならなんにもしないけどさ、真誠さんがいるからなんとなく楽しめそうな気がしてきた。注連縄も今日飾らないとダメだからどこかで頂いてこなきゃね」 いつもの野菜の直販店に着くと真誠さんはもう慣れた様子で後部座席から出したエコバッグを手にしてカゴを持って僕を待っている。 「ねぇ、ここに注連縄があるよ」 ものすごくシンプルな、きっと地元の人が作ってお祓いを受けたであろう注連縄が無造作に並んでいる。それを見比べ選んだひとつを手に取り真誠さんはにカゴにいれ 「何がいる?」 と目をキョロキョロさせた。 「ここもお正月準備仕様になってるなぁ、なんでも揃いそう」 サツマイモの横には栗のシロップ煮の瓶が置いてある。スーパーのように一緒に使いそうな商品がまとめて配置されている。その戦略通りサツマイモと栗をカゴに。煮しめ用のレンコン、タケノコの水煮、ゴボウ、ニンジン、コンニャク。サトイモは貰ったのがある。 大根もある、干しシイタケもある。あとは黒豆か。 「真誠さん、黒豆探して」 あと、お雑煮用のモチナ。水菜も買っておいて白菜と鍋にしよう。 「あったよー、これでいい?」 「うん、いいよ。だいたいもう揃った思う。あとはあるもので」 レジは山のように食材を詰め込んだカゴを持つ人が列になっている。ふっと列を離れた真誠さんは、みかんとリンゴを持ってきて 「チャビ様ってリンゴ食べるんだね」 と言った。 「え? そうなの?」 僕はチャビが餌と海苔と魚や肉以外の物を食べるのを見たことがなかったから、チャビが真誠さんと仲良くやってるんだと思うとなんだか嬉しくなった。

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