106 / 161
今年も猫年(4)(side 真誠)
道の駅のような天井が高くてだだっ広い野菜の直売所で大量に買い物をして、凪桜さんの『三が日は絶対に何もしない覚悟』を感じ取りつつ帰宅した。三が日は、何か欲しいものがあっても凪桜さんをチラッと見たりせず、自分でコンビニへ行こう。
たぶんチラッと見ただけで何も言う前から「ヤダ」って言われるパターンだ、これは。
玄関にシンプルな注連縄を飾って、買ってきた食材を料理別に板の間に並べる。
合間にりんごをひとつ、皮を剥いて櫛形に切り、さらにその真ん中あたりの一番甘いところを1ミリほどの薄さに切っていると、チャビ様がやって来た。
「チャビ、本当にリンゴを食べるの?」
凪桜さんはサツマイモを手にしたままチャビ様を見る。
俺が小皿に数切れ取り分ける間に、チャビ様はテーブルの上に鎮座した。
口元に一切れ差し出すと、チャビ様はしゃくしゃくと小気味よい音を立てて食べ、もう一切れも食べ、さらに一切れ食べてから、ようやく満足そうに鼻の頭を舐め、前足を舐めた。
「知らなかった」
「この間、リンゴのジャム作りに挑戦してたとき、食べる? って聞いたら食べたんだ」
東京のマンション住まいだった頃は健康によくなさそうだと思いつつ、食事の全てをコンビニ弁当とスーパーマーケットの惣菜とピザやハンバーガーのデリバリーで賄っていた。
引っ越してきて、自炊して食べる食事の美味しさに目が開いて、手順が少なくて済む料理は積極的に覚えようとしている。自分が作ったジャムをパンの端に載せて食べて
「美味しい」
と凪桜さんが頷いてくれたりしたら、今度は何を作ろうかとワクワクしてしまう。
スマホで検索すれば初心者向けのメニューはいくらでも出てくるのだ。
リンゴはスライスして網カゴで干しても美味しいし、ジャムにしてもいいし、コンポートでもいい。すりおろしてゼリーにしてもいいし、芯をくり抜いてバターとシナモンシュガーを詰めて焼きリンゴもいい。
そんなことを考えつつ、刻んだリンゴと紅茶の葉を鍋にかけ、シナモンスティックを入れて煮出す。
仕上げにラム酒に浸した砂糖をスプーンの上でフランベして垂らしたら、我流アップルティーの完成だ。
昼間から飲むものではないかもしれないけど、手間暇のかかるおせち料理を作るためには、長時間土間にいられるだけの飲み物やおやつが必要だ。
「真誠さんは紅白なます、作ってみようか」
大根と人参とスライサーを渡されて、素直に頷いた。
ともだちにシェアしよう!