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今年も猫年(5)(side 凪桜)

チャビがりんごの薄切りを食べてる。顔を左右に傾けながら口を動かしていて、それを見て目を細める真誠さんは満足そうだ。 サツマイモを洗い大根と人参の皮を剥いて 「真誠さんは紅白なます、つくってみようか」 と、スライサーを渡す。 「本当はかつらむきをして千切りだけど、スライサーの方が柔らかくて食べやすいし簡単。手を切らないようにね」 剥いた大根の皮を千切りにした。これは今日の晩ごはんに使おう。 「スライスしたら酢につけるだけ?」 「塩もみしてからね。簡単でしょ。甘酢も出来たのがある」 作ってもいいけど簡単に出来ることは手を抜きたい時もある。完璧な手作りにこだわりはなくて美味しかったらいいと思ってる。 サツマイモは水に晒して茹でる。茹でる時にクチナシを入れると黄色がきれいなんだけどそんなの無いから省略。真誠さんは順調に大根をスライスし終わりそうだ。 「人参はこんな少しなの?」 と、真誠さんは残り少なくなった大根の向きを変えながらスライサーから目を離さずに呟くように言った。 「人参の色が多いとバランス悪いんだよ。少ないくらいでちょうどいい。人参は煮しめにも入れるからたくさん食べられるよ」 「なるほど、色のバランス」 大根をスライスし終わって人参に取り掛かる真誠さんに 「固いから気をつけて」 と言いながらゴボウの皮をたわしで擦る。里芋も洗い水と一緒に火にかける。皮がツルッと剥ける程度に茹でると包丁で皮を剥く時みたいに痒くならない。 「おわったー!」 真誠さんは手馴れた様子で塩もみをしている。きゅうりの塩もみ、好きだもんね。 「コンニャクはサッと茹でるんだけど、里芋の中に入れちゃおう、ついでに出来る」 玉コンニャクだから切らなくていい。ザルにあけて洗って鍋に放り込んでひと煮立ちした。 「そこのザルにあげてくれる?」 真誠さんは鍋つかみを使って流しのザルに里芋とコンニャクをあけた。もわもわと湯気が立ち上る。 「熱いから、ちょっと冷めてから皮剥きね」 「凪桜さんなんで料理できるようになったの? おばあちゃんは料理好きだったの?」 「おばあちゃんは特に好きでもなかったと思うけど、作らないと食べるものがなかった世代だから作ってたと思う。僕は食べたことがないものを食べるには作るしかなかったから、色んな本を見て試したり料理番組を見て覚えたり」 真誠さんは不思議そうな顔をして、まだ熱そうな里芋をつついている。早く手をつけたそう。料理は無心になれるし簡単なことでも達成感がある。ただ、やり始めるのに勢いが必要かもしれない。 「そっか、食べたいと思ったものを作ればいいのか」 きっと街中ならなんでも食べられる環境があったと思う。でもここはね、オシャレな食べ物は直ぐに食べられなかったんだ。今でこそファミレスや大手のショッピングセンターがあるけど、なかった時は未知の食べ物がたくさんあったんだ。ティラミスだって初めて食べたのは手作りだ。 「だいたいなんでも作れるよ。もう一度作りたければ定番になって行く。作りたくなければ食べに行くか買いに行くし」 ゴボウと人参とタケノコ、レンコンを切り終えて鍋に入れると里芋もの皮を剥いてみた。ちょっと熱いけどなんとかいける。 「真誠さんは熱かったら触らなくていいからね」 「なんで? 俺もやる」 指先でつまみながら怖々触ってるからキッチンペーパーで包みながら皮を剥くやり方にしてもらったら調子よく次々と出来ているからその間に椎茸を切って戻し汁も鍋に入れる。コンニャクもいれて鶏肉も入れる。 「炒めたりする人もいるみたいだけど、そのまま煮る」 砂糖、みりん、醤油、少し塩。 「あとは煮るだけ。味見は途中でする」 「簡単なんだねー俺にもできそう」 「うん、今度作って」 真誠さんが調べていろいろ作ってるのを知ってるから、次は何を食べさせてくれるのか楽しみにしてるんだ。りんごジャムも美味しかったしカルボナーラも上手に作ってくれたもんね。 「黒豆はどうするの?」 「煮汁を作って煮立てて、そこに黒豆を入れて明日まで置く。続きは明日、あとは煮るだけ、簡単!」

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