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今年も猫年(10)(side 真誠)

 茹で上がったサツマイモを一切れずつ裏ごししていく。  凪桜さんがサツマイモを網の上に乗せる係で、俺が木ベラで潰す係。柔らかくなったサツマイモは簡単に網の向こうへ抜けていき、ときどきひっくり返してみると、イソギンチャクのように網に貼りついていて面白い。  裏ごししたものを鍋に戻し、砂糖、みりん、栗の甘露煮のシロップ、塩を入れて混ぜ、さらに水を入れて溶きのばしてから、強めの弱火に掛けて練っていく。  クチナシの実を入れなかった金団は、絹糸のような淡く上品な光沢を帯び、栗の甘露煮と混ざりあって完成した。 「ゴツゴツした栗の甘露煮も甘くて柔らかい金団で包んで食べてしまえば……。なんだっけ、ユーミンのチャイニーズスープ? 全部鍋に入れて煮込んでしまえば形もなくなる、みたいな歌があったよね」 俺は完成した栗金団を見て思いつくまま喋り、凪桜さんは首を傾げる。 「何か嫌な思い出があったって、甘く煮て食べてしまえ。その内容がどんなものだって、俺は凪桜さんと一緒に食うよ。本屋で俺の本が売れたからって、どうしてそんな顔をしてるのかわからないけど、一緒に食べよう。凪桜さんが食べたくなければ、俺が全部食べるし」  凪桜さんの思考がどんな巡礼の旅をしたのか、俺には知る由もないけど。  「アジミ」という呪文を唱えて、まだ熱い栗金団を一粒小皿に乗せ、箸先で二つに割って、その半分を息を吹き掛けて冷まし、唇で温度を確かめてから、凪桜さんの口に差し出した。  凪桜さんは納得するような、しないような顔で口を開け、しかし味つけには満足したようで、「美味しくできた」と頷いた。  俺も片割れの栗金団を口に入れ、しつこくない甘さの金団とブロック状に砕ける栗を咀嚼し、舌で混ぜ合わせて飲み込んだ。 「何回、一緒に正月の支度をするかな。毎年嫌なことは食べちゃって、楽しいことだけ新年のテーブルに並べたいね」 にゃあっと返事が聞こえて、俺はチャビ様の頭を撫で、鼻筋や耳の後ろも撫で、顎の下も撫でた。 「今年は戌年で、来年は亥年だけど、ウチは毎年猫年ってことでいいよね?」 「にゃあ!」 白ぶどうのような目を高く上げ、やや胸を張って答えるチャビ様の姿に、凪桜さんはふんわり笑った。

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