「もう一ついいかなぁ」 僕が少し気を遣うように言ったからか真誠さんは 「なに？ 僕に出来ることなら頑張るけど走るのは……」 と、変なことを言い出した。 「走る？ 真誠さん走るのは得意なの？」 「い、いや全く走れない！ そのエントリーシート見て……」 なんでエントリーシートを見て真誠さんが走るのかよく分からなかったけど、 「元旦はニューイヤー駅伝を見るって決めてるから。それから二日と三日は箱根駅伝。お付き合いしてくれてもいいし、別のことしててもかまわないけど、僕はテレビを優先するからね」 と、紙を見せた。 「なんとなくわかってたけど。トレランの動画を見た時に、凪桜さんは走るの好きなのか、人が走るのが好きなのかどっちなのかなっていう疑問はあった」 時々、走るのを見て何が面白いの？ と聞かれることがある。でもそこに自分の確固たる意見はなくていつも困るのだ。感動したいとかそういう訳でもない。 「なんだろうね？ 自分でもよくわからないんだけど、マラソンも駅伝もだけどなぜか見ちゃうんだよ。理由は自分でも知りたいと思ってるけど、まだわからない」 「ふぅん。見て面白かったら見るかも。で、その印の意味は何なのか気になってるんだけど教えてくれる？」 僕が適当に付けた印を気にしてるみたいだけど、どこから説明したらいいんだろ？ 真誠さんはどのくらい駅伝について知ってるのかもわからない。 「駅伝はわかる？」 「よくわからないけどリレーとは違うの？」 なかなかの初心者だった！ 丁寧に行かなくては。せっかく興味を持ってくれたのにつまらないと思われたら困る。いや、困らないけど出来れば嫌いにはならないで欲しい。 「駅伝とリレーの違いはわかりやすく言えば襷を渡すかバトンを渡すか、かな。あとリレーは基本トラックで同じ距離を走る。駅伝は距離は区間によって違うし走るコースも違う」 「なるほど」 「この紙の印はね、とりあえず知ってる名前にはラインを全部引いてある。知ってるの基準は何となく知ってるも入ってる。丸は僕が応援している大学出身の人。三角はそれ以外の僕の中での注目選手。囲ってあるのは僕の一番好きなランナー」 「なるほど。で、なんでその大学を応援しているの？」 「え？ そこにくるのかー。もっと細かいルールとか聞かれると思ったよ」 「ルールは見ながら聞けばいいかなと思って」 その通りだ。口で説明しても面白くない。わからない時に答えが返ってくることが楽しいし、より興味が湧く。僕は真誠さんが興味を持ってくれることを期待して、でもちょっと引かれないか気にしながら答えた。 「そこの監督のファンだから。その人が実業団で走ってる時から見てたんだ」 「監督？ 凪桜さんそこまで好きなんだね」 それは好意的に受け取っていのか、ちょっと呆れてるのかわからない返事だった。