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今年も猫年(25)(side 凪桜)

ザッザッとリズムよく大根おろしを作る真誠さんを土間のテーブルに頬杖をついてながめる。さっきの真誠さんとの行為の名残で少し体がだるいから卵焼き以外はお任せすることにした。 真誠さんは僕の真似をしてるのか鼻歌を歌っている。無意識に僕は美空ひばりの歌を口ずさんでいたらしい。おばあちゃんの影響だろうか。真誠さんの口からのそれらしい感じのメロディが楽しげだ。 「大根おろしできた、それからなにやる?」 おろし金を洗う後ろから 「わさびを練って蕎麦に添えようか」 と言いながらテーブルに手をつき立ち上がろうとすると、素早く手を拭いて真誠さんが僕の肩を押さえた。 「俺がやるから、凪桜さんは休んでて」 真誠さんは僕の体を気にしてさっきから全部やると張り切っている。僕はもう一度座るとまた真誠さんの動きをじっと観察した。 引き出しから粉わさびの缶を出し戸棚からお猪口を見つけるとスプーンですくって「これくらい?」と言うように見せてくる。無言で頷くと真誠さんは満足そうに缶に蓋をする。 さっき僕のお尻を叩いて楽しんだお返しでお尻を叩いたらなんだか真誠さんちょっと興奮してたんだよね……。僕に見下ろされたりするとゾクゾクするとか言ってるし。怪しいなぁ。 「どうかなー? いい感じ?」 練ったワサビがへばりついたお猪口をこちらに向ける。 「大丈夫、そのまま伏せておいて」 「卵ときます! 凪桜先生、お願いします」 といって卵焼きのフライパンを用意して僕のそばに来てうやうやしく案内をするような仕草をする。僕も真誠さんの小芝居に乗って「うむ」とか言いながらほんの二、三歩の土間を移動して腕まくりをし「では」とフライパンに油を塗りつけた。熱し具合を確認するために箸先に卵液を付けてフライパンの底で滑らすと、きれいに卵の線ができた。いい感じ。 少しだけ甘くした卵液はジュワッと香ばしい音と香りをさせながら固まる。くるくると巻きながらまた卵液を足し太めの卵焼きを作った。蕎麦つゆは既に甘辛くできていて蕎麦ももうすぐ茹で上がる。 卵焼きに大根おろし、年越しそばはザルそば、熱燗。質素だけど江戸っぽくて真誠さんも僕もこういうのがたまらなく好きだ 「お酒はぬるめの燗がいい〜」 真誠さんは調子よく歌いながら徳利にお酒を注ぐとお湯の張られた鍋に入れた。それから蕎麦をザルに上げ水洗いをしている。 チャビが外から帰ってきたみたいで玄関の猫用ドアがパタンと鳴った。 「チャビ様おかえり〜! ねぇ、チャビ様はご馳走あげないの?」 真誠さんはチャビにもお正月を感じさせたいのか、僕とチャビを交互に見ながら目をくるくるさせている。 「何も考えてないけど。今日作ったものでチャビが食べるものはないから……あ、海苔でもあげようか」 「チャビ様、海苔が好きなんだよね!」 「でも、少しだけね」 チャビは自分が話題になっているのをわかっているのかいないのか、水を飲むと真誠さんと僕の足に交互に絡むように体を擦り付けてから居間に上がって行った。きっとコタツで温まって、僕達が行くのを待っている。

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