129 / 161

今年も猫年(27)(side 凪桜)

「絶対、あのおばちゃん、俺達のこと邪魔してるよな」 玄関まで出ていって畑のおばちゃんから大根を受け取った真誠さんは 「わざとらしく! ちゃんと! 大げさに! お礼しといたから、もうはっきりしないとか言わせない」 なんて鼻息を荒くしていた。 「ホストじゃないって言った?」 笑いながら聞いたら、ちょっと口元を膨らませて 「そんなこと言わないよ。いずれちゃんと小説書いてるって言う!」 僕はまたくすくすと笑いを止められずにいると、座ってお猪口のお酒を飲み干した真誠さんは 「俺は小説家で凪桜さんの恋人です!」 と、お猪口を持った手をドンとこたつの天板に叩きつけた。 酔ってるなぁ。そんなにお酒は弱くないと思うんだけど。 「はいはい、真誠さんはベストセラーも出している立派な先生ですよ〜こっち来て来て」 と、隣に座らせてコップの水をまぁまぁと飲ませた。真誠さんは一気に飲んで 「俺、売れないホストって言われないように頑張る」 なんてまだ言ってる。よっぽど気になってるんだなぁ。 僕の肩に寄りかかってきた真誠さんは寝てしまいそうだったからそのまま座布団を折り曲げて枕にして寝かせた。日付が変わるまで寝かせておこう。毛布を掛けるとこたつから出てきたチャビが真誠さんの脇に寄り添って横になった。 「真誠さん、日付がかわるよ。お正月になるよ」 肩をそっと揺らすと真誠さんは飛び起きた。 「俺!? 寝てた!」 隣にいたチャビも飛び起きて前脚、後脚と順番に伸びをした。 「隣の神社にお参りに行こう」 僕はセーターを着てマフラーを巻きコートを羽織った。真誠さんは勢いよく立ち上がり、風を通さなそうな素材のトレーニングウエアをパジャマの上から重ねマフラーとジャンバーを着ると靴を履く僕に追いついて玄関に来た。 「あけましておめでとう、今年もよろしくお願いします」 と言いながら僕の手を取り、頬に唇を寄せた。玄関を出る前に僕も 「あけましておめでとう。今年もよろしく」 と同じように頬にお返しをした。 ポケットに手を入れて肩を並べて歩くこの道は、もう何度も一緒に歩いている。神社も通い慣れた散歩道。いつの間にかチャビも現れて先頭を小走りで、リズムに乗ったように進んでいく。 「もう少し大きい神社に行くとお酒とか蕎麦とか甘酒とか厄落としの振る舞いがあるけど、ここは何もない。もし良ければ今年の年末はそういう所に行こうか」 「静かにここでいいけど。チャビ様も一緒に来れるここでいいよね」 「みゃぁーん」 甘えた鳴き声を先頭に真誠さんと僕は、灯りは点いているけれどひとけの無い階段を上った。手を合わせて思い浮かべるのはいつも同じ。 家族みんなが幸せで暮らせるよう今年もよろしくお願いします。

ともだちにシェアしよう!