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チャビは喜び庭駆け回り、凪桜はコタツで丸くなる(1)(side 凪桜)
張り詰めたように静か、毎年そんな風に感じている元旦。去年までと違うのは隣に寝ているのが猫だけじゃないこと。人の温もりで眠りについて、朝は温もりと共に目覚める。
今日は一月一日だ。やっときた!
どんな時よりも目覚めがいい。そっと布団をめくらないように抜け出して襖を閉めようとすると、布団の上で寝ていたチャビも音を立てずに一緒にでてきた。
綿入れ半纏を羽織りコタツとヒーターを点け、カーテンを開けてテレビの電源を入れる。
台所の土間に降りてお湯を沸かしポットにほうじ茶を準備してこたつに戻り座椅子に寄りかかると「まもなく号砲!ニューイヤー駅伝」みたいなタイトルの番組が始まった。(こういう番組ってタイトルがそのまますぎるよね)
ここから暫くは僕、凪桜の趣味のお話なので、そういうのはいいや、イチャラブ無いなら(たぶん有るけど極少)飛ばす! という選択も有りです。日常に戻ったようなタイトルになったらまた来て貰えると、僕も真誠さんも喜びます。では、続きを。
今日から三日間は毎年恒例、駅伝三昧だ。年末に宣言した通り、駅伝中心に毎日を送る。
昨晩、真誠さんが眠っている間に駅伝関係の年末特番はチェック済だ。できればこういう初心者でもわかる情報番組を一緒に見てくれると、注目される理由や歴史がわかりやすくて良かったんだけど。
エントリーシートを見直しながら、タブレットでラジオ、スマホでツイッターを開くという僕的には万全な準備をしていると真誠さんが起きてきた。
「おはよう、早いね」
と声をかけるとこたつに入ってきて
「だって、駅伝見なきゃ」
なんて言ってる。ホントに見るのかな。
「好きにしてていいからさ、本読んでも寝てても。僕のことは気にしないで」
「冷たいなぁ。一緒に見てもいいでしょ」
と、こたつの上のポットからお茶を注ぎながら口を尖らせている。
「いいけど。面白くないかも……」
僕は自分の好きな事を人に教えたり勧めたりするのが本当に苦手だと思う。こういう時どうしたらいいのかわからない。だからもうこれ以上は何も言えなかった。
出場する実業団の名が呼ばれると地元の陸上クラブの子どもと一区を走るランナーが順番に登場し、会社や地元をアピールするパフォーマンスをして走っていくというのが恒例だ。
そしてベンチコートを脱いだランナーがスタート地点に集まる。長距離走のスタートは短距離に較べて緊張感は見えにくいけれどそれぞれの表情が映されると自分も号砲を待っているランナーの気分になる。
位置について用意……号砲と共に太鼓や歓声が湧き、走り出すとなぜか少しほっとしてテレビを見つめる。見ているしかないのにワクワクしているけど、今日は真誠さんの視線を感じてそれが気になる。
「見ないでよ、恥ずかしいから」
「見てないよ」
嘘だ、絶対見てた。人に見られながら観戦するってなんか気まずいことに今更気づくとは。
「凪桜さんの見どころを解説してよ」
「うーん……何か言いたくなったら言う。急に言われてもね」
僕は本当に返事に困ってエントリーシートを見て
「ここの会社は全員が箱根駅伝を走った人で一番注目されているし、優勝候補。前回も一位だった」
「だから全員チェックが入ってるんだね、なんで二区は外国人ばっかりなの? そう決められてるの?」
「流石だ、その通り。外国人ランナーは二区しか走れないルールだよ。だから外国人のいないチームは日本人が走るからここで離される可能性大。だけどこのランナー、高卒で実業団にスカウトされた凄い人なんだけど速くて注目だよ」
と、漢字四文字の名前を指さす。
あ、早速喋りすぎたかも。こうやって聞かされた人はみんな「ハイハイスゴイネ」って顔するから後悔するんだ。
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