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チャビは喜び庭駆け回り、凪桜はコタツで丸くなる(4)(side 真誠)

 駅伝って面白いなぁと思った。  いや。正確には、駅伝を楽しんでいる凪桜さんって面白いなぁと思っている。  CMに入った途端、全ての用事を済ませようといきなり動き回る姿は、本当にこの駅伝を見ていたい気持ちのあらわれだし、俺に話し掛けるタイミングも、俺との会話のテンポじゃなくて、レースの駆け引きや見どころに合わせられていて、基本的に俺は凪桜さんの顔を正面から見ることはない。  俺は凪桜さんのおばあちゃんの教えを守って、おせちは全種類を少しずつ皿に取り分けて食べつつ、レースを見つつ、凪桜さんを見る。  凪桜さんは食べながらスマホでTwitterを追い、タブレット端末からラジオを聴き、テレビ画面に注目する。  俺は全く知識がないから、その場でいろいろ検索して、ようやく凪桜さんへ質問できる初心者レベルに達する。 「20人も抜く人がいるなら、どうなるかわからないよね。で、さっきからMGCって言ってるのは何?」 「東京オリンピックに出るための選考レース、マラソングランドチャンピオンシップのこと。9月にあるんだけど、そこに出る権利を得るには対象になる大会で規定の記録を出すか優勝が必要になる。この大会でまず二人を選ぶ」 なるほど。マラソングランドチャンピオンシップなんて初めて聞いて、オリンピックに出場するまでには、いろんな選考が行われているんだなぁと頷いた。  凪桜さんは、今日のレースの予想をたてて〇✕をつけるだけじゃなく、今、この瞬間まで無名だった選手が速い選手の斜め後ろくらいでしっかりとついてくる実力を見て、今後に期待しようという印までつける。  この姿は何かに似ている。  そうだ、タカラヅカだ。ヅカファンだ。  音楽学校に入学するところから注目して、卒業公演、新人公演を見て、さらなる成長を見守る。歌やダンスや演技力を見て期待を寄せながら劇場へ足繁く通い、まだまだ、上手くないと思っていたら急成長するタカラジェンヌもいて、チェックする。  今、凪桜さんが見ているTwitterではきっと、ヅカファンが応援しているタカラジェンヌについて話し、本人に関する些細な情報が流れ、ちょっとした内輪ネタに大きく盛り上がるような、そういう世界が流れているんだろう。  実は妹2号がタカラヅカのファンなので、応援しているタカラジェンヌについて考えて嬉しそうにニヤニヤしていたり、相手の知識の有無に関係なく暴走するように話したりする姿には慣れている。聞いているうちに何となく見どころがわかってくるものだし、実際に劇場まで観に行って、その華やかで夢のある少女マンガのような世界を楽しんだ経験もある。  凪桜さんも、そうやって好きな気持ちを爆発させて「来年は箱根で年越ししたい! 復路は大手町まで追い掛ける!」なんて言ってくれてもいいのに、凪桜さんは自分の『好き』が爆発しそうになると、爆破処理班を出動させて押さえ込んでしまう。 「くすっ」  今も何か面白いツイートがあったのかつい笑ってしまう口を手の甲でそっと覆って、懸命にポーカーフェイスを装う。口許緩んでるし、目は細くなっちゃってるけどね。  Twitterに内輪ネタや符牒のような挨拶が流れたら、素直に喜んで笑えばいい。俺にもそのツイートを教えて、俺には全然わかんなくてキョトンとしている隣で一人でウケて笑っていたっていいのに。  凪桜さんの頭の中を、俺はもっともっと知りたいなぁ。

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