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チャビは喜び庭駆け回り、凪桜はコタツで丸くなる(5)(side 凪桜)

何分差をつけたら安心して走れるかなんて計算できるようで計算出来ない。予測はあくまでも予測で、ベストタイムで全てのランナーが走れることが条件だ。 タイムで結果が出る競技は勝ち負けがわかりやすく目標もたてやすい。そこに向かってストイックに磨きをかけるという行為に羨望を感じている。一瞬のコンマ何秒も凄いけれど、何十キロも走って何秒というのは気の遠くなるような努力に思えてしまう。 感性や感覚などという説明し難い部分でしか自分を表現出来なかったから尚更だ。それが陸上競技を観戦することか好きな理由ではないとは思うけれど、これはずっとわからないままでもいい気もしている。 先頭を追いかけている二人のうちの一人は僕が応援している人だ。一昨年から去年の途中までは怪我ででてこなかった。年末のマラソンで復活して、今も区間賞を取る勢いで走っている。サングラスの下の目は見えないけれど走りは安定して力強い。少し後ろからは初代山の神も次に名を上げるであろうランナーと快走しているし、どちらかが区間賞を取ると予想している。 ただ、どのチームを応援するという訳では無いから、全ての選手に頑張って欲しい気持ちは変わらない。 初優勝を目指すチームがトップで、30秒ほど後にそれを追う二人が襷を渡した。戦略の、と言われる区間でアップダウンがあったり道が曲がったりしながらアンカーに繋ぐポイントとなるコースだ。 道が曲がっていると何が難しいかと言うと、前の追いかけるべき目標が見えないことが一番だと思う。見える目標を追うのは気持ちが違う。目の前に目標がなければテンションが上がらないのは日頃鍛えている人でも同じらしい。 「あれ? 今、襷を渡す瞬間映らなかった……」 後続のランナーが二人で競いながら前を追いかけていたのにその二人の襷を渡す瞬間を見逃した。後で録画を見なくては。メモしておこう。 そしてCM。その間はラジオで隙間の情報を。最近はラジオも同じタイミングでCM入れたりするから困るよな。でもその間にトイレ行ってこよう。 前回もこの区間を走り区間新記録を作ったランナーが調子よさそうに力強く、トップを追いあげている。もう先頭と同じカメラで映されるほど迫っていて追いつくのは時間の問題だ。双子の兄が同じチームで先に走ったがタイムを伸ばせなかった。その分弟がここで頑張っている。 「今年は去年よりまたこの靴のランナー増えたなぁ」 シューズにも流行りがある。二年ほど前から見るようになったそのシューズは一般発売元されたが直ぐに売り切れてしまうほど注目されている。それを履いたから早くなる訳では無いと誰もがわかっているが、それを履きこなすには走り方も変えなければならないとか、向き不向きがあるとか言われるのでマニアは余計にそそられるのだろう。 サッカーでも流行りのシューズはすぐにわかるからサッカーファンの間では同じようにシューズは話題になっているはずだ。 最後のランナーに襷が渡ったのは一位二位ほぼ同時。勝負は最後のランナーに託されていく。 ベテランと中堅の競い合いはそれぞれの持つ経験値と計算力、そして実力、全ての力をこの瞬間にバランスよく、いつも以上にそれ以上に使いこなした方が勝者となる。 もうここからは目が離せない。一区から縺れていた勝負は最終区までもつれたままだ。前に出たり下がったり横に並んだり。きっとどちらも引き離したい気持ちはあるが、そこは駆け引きだ。残り一キロ、離しにかかるもどちらも離れない。 走りの安定感を見るとやはりこっちか。見ている方が力が入る。 残り五百メートル、まだ離れない、仕掛けてるのかもしれないけど離れない。残り百メートル、ぐっとスピードを上げ突き放す。どこにこんな力を残しているのか。最後の最後、百キロ以上走って勝負は最後の百メートル! ゴールした瞬間、力が入ると同時に連覇したチームの強さを振り返った。最後の最後に持ってくる見せ場。見ている方には本当に楽しませてくれた、お疲れ様でした。 競い負けたランナーの悔しさは次の勝負の糧になる。続々とゴールする姿を見つつ、金団に箸を伸ばす。ほっとする味だ。 「あ、真誠さんごめん。夢中になってた」

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