137 / 161
チャビは喜び庭駆け回り、凪桜はコタツで丸くなる(7)(side 凪桜)
録画を早送りしたり巻き戻したりして一通り気にしてたところを見終えると真誠さんがいなくなってたから明日の箱根駅伝のエントリーシートを眺めた。
どこの区間を変更してくるのだろう。ほとんどの学校がそれぞれの意図を持って当日にランナーの変更をする。当て馬的に各校の様子を見る場合もあるだろうし、もちろん体調を崩して変更ということもある。
気がつくと真誠さんがお盆にお椀を乗せてなにか呟きながら戻ってきた。
「凪桜さん、監督を応援してるの?」
印の付け方に思わず力が入ってしまったのがバレてる。わざわざ囲わなくてもいいのについ。
「うん。実業団の頃に選手として走っているのを見て知って応援してて、引退してこの大学の監督になったからずっと応援してる」
僕は余計なことを続けて喋りそうになり、某スポーツコメンテーター(元マラソンランナー女性)みたいにならないようにしようと口をつぐんだ。
真誠さんが差し出してくれた湯気の上がるお椀はお雑煮みたいだ。
「真誠さんが作ったの?」
「うちのお雑煮はこういうのなんだ。おとうが具沢山がいいって急に言ったから、おかあが煮しめに餅を入れて作ったのが始まり」
「へぇー美味しそうだね。このアイデアはすごくいいね! いただきます」
ひとくちおつゆを飲んで餅をかじり煮しめの人参も口に入れる。
「いいね、これからこれにしよう」
「え? 凪桜さんちの普通のお雑煮も食べてみたい」
「具はほとんどないよ? うちの雑煮」
暖かい食べ物は幸せな気分になるのはなんでだろう。お腹の中が温まってくると気持ちもやさしくなってくるよね。べつに今、気持ちが荒んでたわけではないけど、緊張感があったのかもしれない。自分の勝負じゃなのになぁ。
「ごちそうさま、明日は何作ってくれるの?」
僕はお茶に手を伸ばした真誠さんに聞いてみた。真誠さんは二人の湯のみにお茶を注ぎながら
「うーん、他に出来るものはなんだろう?」
と、考えだした。明日も駅伝見るからお昼は何もしないで過ごすと思って、なんとなく聞いてみたら真誠さんは一生懸命に考えてる。そんなつもりじゃなかったのにおかしくなって
「ごめんごめん、そんな真剣に考えなくても」
と笑いながら肩をたたいた。
「もー。俺、作れるもの少ないから悩むんだよ」
「ラーメンとかでもいいんだけど」
僕の適当な提案に
「え、お正月はなんか作ったらダメなのかと……」
と、おばあちゃんの教えを出してきた。真誠さん! 気にしてるんだ!
「だってお腹すいちゃうよ。おせちはおツマミかおやつみたいなもんじゃん。今晩だってご飯炊いて食べようよ」
コタツの角を挟んで真誠さんを手招きし軽く唇を合わせて
「明日もこんな感じだからよろしくね」
ってお願いしたら真誠さん、目を見開いてコクコク頷いて。僕はもっと優しい気持ちになって、お腹も満足してそのままコタツでうとうと眠ってしまった。
もちろん夜には目が覚めて、真誠さんが入れてくれたお風呂に入り、冷凍してあったブリを焼いておせち色々もつまんでビールを飲みつつスポーツニュースをチェックした。梅干しと大根の味噌汁でご飯を食べたら明日に備えて今日は早寝だ。
ともだちにシェアしよう!