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チャビは喜び庭駆け回り、凪桜はコタツで丸くなる(9)(side 凪桜)

設定したアラームより早く目が覚めた。真誠さんは隣で寝息をたてている。いつ寝たのかな。 夜中に台所の鍋の前で手を振りあげて何かの儀式みたいに歌って踊ってたけど、カレーが美味しくできたとか言ってたな。 寝顔を見て思い出し笑いをしながら布団を動かさないようそっと抜け出し綿入り半纏を羽織り土間に降りて鍋を覗くとカレーがあった。カレーが得意なのかな、お昼が楽しみだ。きっと、明日は何作ってくれるの? って聞いたから作ってくれたんだ。 駅伝の朝は早い。僕が応援しているチームは朝練が中心だから特に早い。テレビではウオーミングアップをするランナー達、スタートを見る為に集まった観衆を映し出す。 いつも始まってしばらくはゆっくり見ることが出来るからスタートしてほっとしていると一人が転倒した。それもまだ一キロ走ったかどうかのあたりで。なんとか走り出し集団に追いついたけれどだんだん苦しそうに足をかばい顔をゆがめる姿に序盤から目が離せない。転倒から20キロを走り通す力は襷を繋ぐという思い。 その間にもどんどん引き離す先頭。トップは昨年と同じランナーが二区へ襷を渡した。この時間から10分遅れると繰り上げスタートとなり、母校の襷をつなぐことが出来ずまた、勝負としては負けとなる。 先程の転倒したランナーはなんとか時間内に襷を渡すと倒れ込んだ。足を触ると叫ぶほどの怪我で担架に乗せられる様子は、また走れるのかという心配しかない。 こちらに気を取られている間にも花の2区は先に進んでいる。各校の代表するランナーが揃うがここでも思う通りに走れる者やそうでない者もいて、やや荒れ模様だ。 応援している学校はあるものの、レースが盛り上がるのは面白い。どのランナーもここに居るということは選ばれた者、ひとりひとりの話を聞いてみたいくらいだ。 外国人留学生の活躍でトップに出た学校を皆追いかけ追いつき、また順位は入れ替わる。どこにどのランナーを置くのかは戦略によるが、優勝候補から何分差をつけるという目標を持つことが多いようだ。 ランナーの後ろには監督車が付いて声をかける。監督の言葉は走るものに力を与える。ある監督が元気のない元教え子のランナーに声をかけたらありえないほどスピードが上がったと、先日のマラソンでも話題になった。 この監督は優しい掛け声と厳しい掛け声を上手く使い分けるけれど、有名なのは「男だろ!」という掛け声でいざここぞと言う時にしか聞けない。今も遅れ始めた下級生ランナーに「お前はこれからもっと速くなるんだから焦らなくていい」と言っていて本当に泣ける。まだまだ名言はあるけれど長くなりそうだからこの辺で。 僕の応援してる学校は往路勝負だから安定感があって今日は心配してない。監督は追いつき追い抜いたランナーが、かつてないほどの記録で走り続けてるのに「速いとおもうなよ」と言うドSである。それに応えるランナーは嬉しそうにも見えてしまう。 箱根の楽しみの一つはこの監督の掛け声。今年もいろいろいただきます。 「なんか嬉しそうだね」 真誠さんに言われて、監督の声入りのツイッターを見せる。 「こういうのが楽しいんだ。なんか元気になるし監督の人柄がわかるんだよね」 山登り五区はなぜかマスコミの話題にならないが、昨年新記録を作ったランナーがまたもやごぼう抜きで自身の記録を更新する勢いで上がってきている。卒業する前には神と呼ばれるような総合順位に上がってきて欲しい。 そして無事、僕の心の母校は往路優勝をした。 「真誠さん、今からカレーたべてもいい?」

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