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チャビは喜び庭駆け回り、凪桜はコタツで丸くなる(10)(side 真誠)
正月二日、箱根駅伝往路。
凪桜さんは負傷したランナーを心配したり、デリカシーのないアナウンサーに怒ったり、ランナーの後ろをついて走る監督車の中からスピーカーを通して聞こえてくる監督の言葉を聞き取っては書き留めたりしていた。
一応、俺に遠慮してくれてるのか、頑張ってポーカーフェイスを心掛けているけれど、とある監督が
「速いとおもうなよ」
と声を掛けたとき、口元が緩んだ! デレた!
嬉しそうだなぁと思ったので、そのまま正直に言ってみた。
「なんか嬉しそうだね」
凪桜さんはいそいそとTwitterを見せてくれる。ハッシュタグでソートすると、監督の声入りの映像が貼られたツイートがずらりと並び、その中でもイチオシを見せてくれる。
確かに面白い。監督の人柄や選手との信頼関係が透けて見える。
「こういうのが楽しいんだ。なんか元気になるし監督の人柄がわかるんだよね」
凪桜さんはそういうところも楽しむんだね。思わず頬にキスしてしまったけど、怒られることなく、凪桜さんは駅伝の世界へ戻っていく。
往路の結果は凪咲さんが『心の母校』と呼ぶ大学の優勝で、テレビの前でパチパチ拍手をした。そういう姿も本当に愛しい。続けて速報やダイジェストやTwitterを見ながら往路優勝の喜びを噛み締めている間に、俺は土間に立ってトマトカレーを温め直す。
味見をしてみると、昨日よりトマトの酸味がまろやかになり、全体に味が馴染んでまとまりがよくなった気がする。
「真誠さん、今からカレーたべてもいい?」
居間から声が掛かる頃には、俺はなんと白菜と大根のサラダまで用意していた。素晴らしい!
カレーは凪桜さんに好評で、気づけばもう日が暮れている。
凪桜さんは明日の復路のエントリーシートを見ていて、俺は食器を洗い、風呂を沸かした。
「凪桜さん、お風呂沸いたよ」
「んー」
「一緒に入ろう」
「んー。先に入ってて」
タブレット端末をタップしながらのお返事で、これは絶望に近い望み薄だなと思いつつ、俺は丹念に身体を洗って浴槽に身を沈めた。
「駅伝が終われば、またこっちの世界に帰って来るだろうから。♪はしるーはしるーおれーたーちー、ながれーるあせもそのまーまーにー♪」
音響のいい風呂の中で楽しく歌っていたら!カラカラと戸が開いた。
「ご機嫌だね」
全裸の凪桜さんが入って来て、俺は思いっきりその身体を見てしまう。顔より先に股間を見る癖は辞めたいのだけれど、本能なんだろうなぁ。
シャワーの湯を出して俯いて頭を洗っている間に、浮き上がる背骨や肩甲骨、お尻の谷間なんかを見てしまう。眼福、眼福。
全身を洗い終えて立ち上がり、浴槽に向かって歩いてくれば、顔の高さに充実果実がある訳で、浴槽のふちを跨いでる瞬間なんか最高で!
凪桜さんが身体を沈めると、風呂の湯がさあっと外へ溢れ出て凪桜さんのために場所を空ける。
俺は凪桜さんの脚の間に後ろ向きに身体を収め、胸に背中を預けてホッと息を吐いた。
「真誠さん。カレー、美味しかった。また作って」
「うん。明日も作ろうか」
「明日? それはさすがに」
笑う凪桜さんの振動が伝わって、俺も一緒に笑う。
その和やかな空気を利用して、俺はアプローチを試みた。
「じゃあ風呂から上がったら、俺のこと食べない?」
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