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チャビは喜び庭駆け回り、凪桜はコタツで丸くなる(17)(side 凪桜)

今朝も目覚ましなしで目が覚めた。そして、そっとベッドから抜け出すのも昨日と同じだ。チャビは既に起きているようで襖がチャビの幅の分だけ開いている。 昨晩の真誠さんのことを思い出し気持ちよさそうに目を閉じている顔を眺めながら寝室を出て、静かに襖をとじる。 ボーッとした頭をスマホやテレビの情報に集中させながらコタツの上を片付け整えると、期待をしながら箱根駅伝復路のスタートを見守った。先頭を走る気持ちよさを僅かな自分の体験と重ねていると時間差でスタートするランナー達が次々走り出した。最後はトップの選手がゴールして10分差以上の学校のランナー全員が一斉にスタートする。これで見た目の順位と本当の順位が違ってくるからややこしい。 山を下りきり監督車が後ろに着くまでランナーは自分の判断で走り続ける。ただ、聞く話によると周りの音は遠くに聞こえるほど走りに集中していることも多いらしい。山下りのスピードと過酷さに見る方も集中してしまう。後ろからトップを追い上げてくる様子を気にしていたらスマホにメッセージが入った。 『もうすぐ着くけど、何かいる?』 「え? 聞いてないよ……」 弟が突然来るという。嵐のような家族!! 通称(僕の中では)御一行様! 慌ててコタツから立ち上がって返信する。 「聞いてないよ、なに? 家族で?」 周りに散らかっているタオルや服や雑誌をとりあえずまとめて襖を開ける。 「真誠さん、起きて! 弟が来るって!」 僕は持った物をベッドの横の椅子に放り投げるように置くとぼんやり目を開けた真誠さんの手を引いて起こした。またスマホが鳴り 『みんないるよ。とりあえずうどんと天ぷらは持ってきてる』 と返事が来た。 真誠さんの顔を両手で挟んでそっと唇を合わせて 「ごめん、弟家族が来るんだって。もう……早く言えばいいのに当日はないよね! てことで着替えて」 と、Tシャツをかぶせた。 「あ、うん……わかった。着替える」 真誠さんはまだはっきり目覚めてないようでゆっくりTシャツに手を通しながら目をぱちぱちしている。テレビの画面をチラチラ見つつ、居間の畳の見える面積を広げるべく散らばった物を寝室へ運び、真誠さんの着替えを手伝ってから寝室の襖を閉めた。 「顔洗ってきて」 真誠さんを誘導しつつ洗濯物を集めて玄関を出るとちょうど弟の車が坂を登ってきた。 「早すぎる!!」 洗濯機に持っていたものを全部放り込むと一旦部屋に戻り窓を開けて空気を入れ替え 「真誠さん、もう来ちゃったから。弟と子ども二人とお嫁さん。ごめんね、なんとか対応して」 それだけ言うとまた玄関から外に出て車から荷物を下ろす弟達を迎えた。 「なぎちゃん、あけましておめでとうございます!」 「あけましておめでとう、いつも突然でごめんねー」 と甥と姪やお嫁さんの言葉に押され、不機嫌な顔もできなくなる。 「あけましておめでとう、できれば前日に言ってよ」 と、弟にだけ顔を向けた。 「ごめんごめん、いつも来るからいいかと思って」 「いつも昼からだし、駅伝見てるのに」 「あれ、三日もやってるの?」 「もういいよ、入って」 甥と姪は既に家に入っていて 「あけましておめでとうございます!」 と、元気に真誠さんに頭をぺこりと下げていた。こいつら、そう言えば誰もがお年玉をくれると思ってやがる!!

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