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チャビは喜び庭駆け回り、凪桜はコタツで丸くなる(19)(side 凪桜)

ごめん、真誠さん! 声に出さず口の形で伝えつつ、右手を顔の真ん中に立ててあやまる合図をする。真誠さんは頷いてチビふたりと絡まるように部屋に入って行った。 「こらー迷惑かけるなよー」 「この前ちょっとだけ話したでしょ、小説書いてる真誠さんだよ」 「早速迷惑かけてごめんなさいね」 手土産のうどんと天ぷら、温めるだけのツユと芋ようかんを渡された。お嫁さんの実家はうどん屋さんで麺はもちもちしてコシのある生麺。なかなか美味しくて貰うと嬉しい。 真誠さんがチビ達を引き連れて部屋から出てくると、挨拶しながら 「小説を書く仕事をしていて、単行本の表紙を凪桜さんに描いていただいたご縁で、こちらへ寄せさせていただいています。あ、これがその本です」 と、僕の描いた表紙の本を差し出した。身内に仕事を見られるって正直恥ずかしくてほとんど見せたことないんだけど。 弟はへぇーとかなんとか言っているが絵にも小説にもあまり興味が無いはずだ。真誠さん、本当にごめん。きっとその本はうどん屋さんに飾られると思う。そして暇な時にお義母さんが読むんだ。想像がつく。 「ちぃも見る!」 「ゆたかもー! みーせーてー」 真誠さんはチビ達の質問に丁寧に答えている。話の内容を理解してるのか分からないけど、そのやり取りは僕の叔父さんのことを思い出させた。 「よしまくん思い出したよ」 と、弟に話しかける。 「あーそういえば川越のマンションの最上階から施設に移ったらしいね。なんていうの? 医者とか常駐してるけど自分で身の回りの事できる人が住んでるところ……」 「らしいね。よく遊んでもらったな。子どもなのに真剣に相手をしてくれるから楽しかった。その他はいろいろ適当な人だったけど」 「なぎちゃんは人のこと言えない」 という弟の言葉にクスっと笑ったお嫁さんは 「榊原家は昔からみんな名前で呼び合うんだ」 といいながら流れっぱなしのテレビ画面に目を向ける。僕はリアルタイムで観戦するのはあきらめ録画を見ることにして、騒がしいお正月の特番にチャンネルを変えた。 昼には早いけど何も食べてないのでうどんをいただくことになった。チビ達はなんだかんだと走り回り真誠さんに絡んでいる。 うどんは沸騰したお湯に入れてツユは温めて器に。天ぷらと、カットされてるネギをのせるだけ。もちもちとコシのある讃岐うどんみたいな食感と白だしのしっかりした味つけ、汁まで飲み干せる飽きのこない濃さ。自分で作らない味は新鮮で満足度が高い。 芋ようかんとお茶を飲みながらコタツで世間話をしている間、真誠さんはチビ達と何かお話を作っている。大人しく真剣に、時々きゃっきゃと立ち上がり走る。そうやって相手をするのかと感心した。とても僕にはできないけど。 公園に寄って遊んでから帰るという御一行様を見送って玄関を入ると、手を真上に上げ背中を伸ばす真誠さんに 「ごめん! 本当にお疲れ様」 と後ろから絡みついた。 「疲れたでしよ、ゆっくりして」 「正直かなり頑張ったから疲れた、嵐が来たみたい」 「片付けは後にしよ」 コタツの定位置に足を入れ寝転がって体を伸ばす。一気に力が抜ける感じ。来年は来るなら前日までに! 時間は昼から! と釘をさしておかないと。 ふっと意識が遠くなりそうになった時に駅伝を思い出し起き上がると真誠さんは目を閉じていた。 毛布を静かに掛けて、ネタバレの無いようツイッターは見ず録画を再生した。 僕の応援する学校は途中で抜かされ結果、今年勝たなくていつ勝つのかと思われるメンバーの揃った大学が優勝した。納得の結果だ。 卒業しても実業団で走る人たちには違うところで頑張って欲しいし、残る人にはまた来年のお正月に力を発揮してもらおう。 疲れて眠る真誠さんの顔を眺めて僕のお正月はこれでおしまい。

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