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庭に咲く花、枯れる花(1)(side 真誠)

 送られてきた春庭のパンフレットには付箋が貼られていて、『うさぎ3姉妹(?)』というサークルに印がついていた。  黒い枠の中にスペースナンバーとサークル名、そして情報が書いてあるのだが。 夢咲まゆ★新刊★『妹思いの兄ウサギ、後宮で性戯を仕込まれて、王様のお気に入りになっちゃいます♡』書き下ろし番外編 「待て待て待て待て、自分の兄にうさ耳としっぽを生やしてモブレと寵愛でSEX漬けにしたBL文庫本を商業で売りまくった挙句、番外編の同人誌を出すだとぉぉぉぉぉ?!」  俺は夢咲まゆを名乗る妹2号に、当該箇所を写メってLINEを送る。 『おーいえー!』 返事はそれだけで、俺は即座に通話ボタンを押した。 「おーいえーじゃない! お前、どれだけ自分の兄貴を辱めたら気が済むんだ! 商業であれだけやられたのに、同人誌なんて自由度の高い媒体で番外編なんて、何を書くつもりだよ!」 「んー、まだプロット書いてる途中なんだけどねー」 そう言う妹2号からは、ポメラのキーボードを叩いているらしき音が聞こえる。 「なんだけどねー、で終わらせんな」 「凪桜王とのめくるめく官能的な新婚旅行、セーラー水着ではしゃいじゃうぞ♡ みたいなイチャラブ山なし落ちなし意味なし展開か。あるいは新婚旅行先でウサギのマコト誘拐、凪桜王の珍味を味わいたいと集まったモブにやられるか」 「またモブレ? 自分がモデルだと思うと中途半端に感情移入して、モブレは辛いからもう嫌だ! 未遂じゃなく、どいつもこいつもガッツリ奥まで挿れやがって。メスイキ、中だし、意識朦朧、読んでるこっちの尻が痛くなる」 「じゃあ、誘拐されて奴隷としてマーケットで競りにかけられようか」 「お前、登場人物をピンチに陥れるときって、マジで容赦しないよな」 「上げる前には落とさないと。物語には落差が必要じゃん」 軽快にポメラのキーボードを叩いているらしき音が響いた。 「そんな事情で俺が奴隷市場に売りに出されるのは不憫すぎる。……ニコさん、俺が何をしたら凪桜王とのイチャラブ展開で収まりますか?」 「当日、本を買いに来て、売り子を手伝ってくれたら」 「東京まで行けってか?」 「『たまには帰ってらっしゃい』と年老いた親が言っております」 「そこで親を持ち出すのはずるい」 「正月に帰省しない親不孝者めが」 「その前にすき焼きパーティーで大騒ぎしたからいいだろう。こっちは駅伝っていうバカでかいイベントが三が日連続、そこに弟夫婦と甥と姪で倍率ドン、さらに倍! はらたいらに三千点だったんだよ! お前、はらたいら知らないと思うけど! 俺も知らないはずだけど!」 しかも復路で自分が推してるチームが順位を下げて、凪桜さんは『もう録画は見返さない』と膝を抱えてしまい、駅伝を嗜まない俺は慰め方がわからず右往左往した。  結局、今はその録画も早送りや巻戻しを繰り返しつつ見返していたりするから、きっと立ち直れたんだろう。 「あ、凪桜さんも春庭来るよね」 「行くわけねぇだろ! 何、普通に腐向けイベントに取り込もうとしてるんだよ! 巻き込むな!」 通話をたたっ切って仕事部屋を出て、ちょうど昼前。残りご飯でオムライスを作り、ケチャップで『♡なぎさ♡』と書いたものに、仕事部屋から出てきた凪桜さんは、何の表情の変化も見せず、ザクッとスプーンを突き立てる。照れ屋さんにも程があるぞ☆ 「ってことで、イチコとニコが同人誌即売会のイベントに出るから、その売り子を手伝ってくる。撤収したらすぐ帰ってくるよ」 一緒に三月のカレンダーを見て、凪桜さんは呟いた。 「あ。その日、東京マラソンだ」

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