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庭に咲く花、枯れる花(6)(side 凪桜)

まだ雨の降る歩道を駅に向かって歩き出してふと思った。真誠さんて何が好きなんだっけ? 小説、猫、時代劇……それから……? そう思ったら自分が高校生の頃、コンサートやイベントに引っ張り回した友達のことを思い出した。大人になってから「あの頃はごめん、色々引っ張り回して迷惑だったよね」と聞くとそいつは「知らない場所に行けて楽しかった」と言ってくれたけど。僕は自分勝手に人を振り回していた。 今日もそうだ、興味のないマラソンに付き合わせてる。お正月だって家で駅伝見て過ごすって勝手に決めてたから実家に帰ってない。帰るかどうかも聞きもしなかった。ずっと僕に合わせてくれてたんだ……。今日は真誠さんが楽しめるようにしよう。 「もっと観てていいのに。春庭の時間なんて気にしなくていいんだから!」 後ろから歩いてくる真誠さんが傘の分離れてるからか大きめな声で話しかけてきた。 「イチコちゃんとニコちゃんに会いたいし」 「え?」 「折り返し地点で十分堪能したよ。初代と三代目山の神、それにあの双子のお兄さんの走りも見た! あとは帰って録画で楽しめる」 「なんだったらゴールまで行くとかしてもいいんだよ?」 「ゴールまで行くとすごい人だから、あんまり見えないよ。雰囲気は盛り上がるかもしれないけどもう満足したよ!」 真誠さん不安そうな言い方で、なんか歯切れが悪い。あれ? もしかしてまた自分勝手なことしてる? 話が噛み合ってない? 後ろから歩いてくる人を避けて歩道の脇に寄り、立ち止まった。 「真誠さん、もしかしてもっと見たかった?」 「いや、そういうわけでもないけど……」 「走るの見て楽しくなってきた?」 「楽しかったよ、隣にいた人がいろいろ教えてくれたし」 「ごめん、また自分だけで盛り上がって満足してた……」 「そんなんじゃなくて! 別にどうしても春庭に行かなきゃならない訳じゃなくて……」 「え、イチコちゃんとニコちゃんが待ってるんでしょ」 「あー……うーん……」 やっぱりなんかおかしい。 「僕が行くとよくない? 別行動にする? 大丈夫だよ、一人でも」 真誠さんがしたいように。好きなこともっと教えてもらわなきゃ。 何か考えてる様子を見守りながら肩に新しく落ちてきた水滴を払った。真冬のような雨、今日は一日止みそうもない。 「ううん、一緒に行こう!」 真誠さんは勢いをつけるように先を歩き始めた。面白いなぁ。頭の中では何が起こってるんだろ。 僕が思うより真誠さんの頭の中は無限に広がっていて、思いもつかないような世界観やストーリーや人物が生きている。その端っこに僕も付け加えられてるといいなぁ、などと思いながら後ろについて駅に向かった。

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