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庭に咲く花、枯れる花(9)(side 真誠)

 うさぎ模様の布を敷いたテーブルには、でかでかとポップが置かれていた。 ----- 夢咲まゆ★新刊★『妹思いの兄ウサギ、後宮で性戯を仕込まれて、王様のお気に入りになっちゃいます♡』書き下ろし番外編 『王様思いの赤ウサギ、新婚旅行先でイチャラブエッチ三昧、セーラー水着を着ちゃいます♡』 ----- 「セーラー水着? なぜお前はそういう余計なオプションをつけるんだよっ?」 肩を掴んでがくがく揺さぶっても、妹2号は余裕の笑みだ。 「マコトに女装させると読者さんが喜ぶ」 「畜生っ!」 『読者さんが喜ぶ』なんて、物書きにとって最強のパワーワードだ。勝てるわけがないじゃないか。  そんなささやかなきょうだい喧嘩を繰り広げている間にも、次々新刊を買いに来てくれる。  妹1号も再版した同人誌を頒布しつつ、お菓子やお手紙を受け取ってはニコニコ楽しそうにしており、さらには 「どーもー! お世話になってますー!」 なんて、挨拶に来てくれた編集さんと壁際へ移動して立ち話をしていたりする。  妹2号もお手紙やお菓子を受け取りながらご挨拶に忙しく、俺は次々に減っていく新刊を机の下のダンボール箱から補充したり、お金を受け取ったり、計算したり、お釣りを渡したりと慌ただしい。 「手伝うよ」  凪桜さんはすっと俺の隣に立って、会計を引き受けてくれる。凪桜さんは計算が早くて、俺の倍くらいの速さで会計をこなす。  しかも空いたダンボール箱を次々に畳んで片付けていく手際のよさで、この人はやっぱり片付けが苦手なんじゃなくて、好きなものが多いんだなと再認識した。 「ひょっとして、マコトさんですか?」 来てくれた人にプッと噴き出されながら言われるのも仕方ない。読者さんが喜んでくれるならと人身御供の気持ちで俺は頷く。 「マコトさんも、サインください!」 って言われて、俺はキャラクター用の赤ウサギのマコトのサインをするべきなんだろうか?  迷ったところでキャラクター用のサインなんか考えてないから、小日向真誠といつも通りのサインを書き、おまけに下手くそなウサギの顔を描き添えた。  その人は、さらにチラチラと凪桜さんを見る。  ああ、妹2号の描写力が憎い。  凪桜王の美しい容姿は、凪桜さんの美しさをありありと写し取っていて、一度でも読んでいれば、一目で凪桜さんが凪桜王だとわかってしまう。 「はい、この方が凪桜王のモデルです!」 言っちゃったよ! 妹2号、ハッキリと言っちゃったよ!  凪桜さん、会釈とかしなくていいから! 「わああああ! サインください!」 言うよな! そりゃ、言うよな! 俺だってサイン欲しいよ!  凪桜さんは本とペンを差し出されて、素直にサインに応じていたのだった。順応力高いなぁ。

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