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庭に咲く花、枯れる花(10)(side 凪桜)
イチコちゃんとニコちゃんのスペースはとでも目立つ場所にあってたくさんの人が本を買っていく。さすがプロ作家! あ、真誠さんもプロだ。みんな才能があってすごいきょうだいだ。
「凪桜さん、今日は来てくれてありがとう。これ新刊の書き下ろし番外編なんで、よかったら読んでください」
「おい! 凪桜さんはそんなの読まないからな!」
手渡されてる間に真誠さんは肩でニコちゃんを押している。ニコちゃんはへへっと笑って
「お兄は恥ずかしがってるだけです」
と、お客さんが来てその対応を始めた。真誠さんも指定された本を袋に入れて手渡している。その背中側から
「凪桜さん、遠くからごめんなさ〜い! 私の新刊も読んで〜!」
と、荷物を避けながらイチコちゃんが本を手渡してくれた。
「ありがとう、貰っちゃっていいの?」
「兄がお世話になってますから〜全然足りないくらいですぅ〜」
と、すぐにイチコちゃんのところにお客さんが来て、その対応に戻っていった。
カバンの中に大切に二冊の本とおまけのペーパーをしまって周りを見渡すと女性の中にちらほらと男性もいる。みんな腐男子なのかなぁ。
僕は少しだけネットで読んでみたんだけど、男女の恋愛と変わらないと思った。周りの理解とか結婚という制度にハードルがあるというところで盛り上がるのだろうか? まだその辺は勉強不足かも。エッチシーンは先に経験済みだからまぁまぁすごいね、とか思ったりする。現実とは別物らしいからね。
あと、レイコさんが書いたと思われる作品も見つけて読んだけどこれは真誠さんにも言わない方がいいのかな。BLだとかなんとか関係なく読み物としてすごく良かったから共有したいんだけど……レイコさんにバレると怖いから、もう少し黙っておこう。
イチコちゃんもニコちゃんも差し入れのお菓子や手紙をたくさん受け取って袋がいっぱいになってる。真誠さんも売り子が身についてるけど忙しそうだから
「手伝うよ」
と、横に立って会計や袋詰めを手伝ってみた。列を作るわけではないのに次々と人が途切れなくて人気があるってすごい事だと実感していると
「ひょっとして、マコトさんですか?」
と声がかかった。え、真誠さんの小説読んでる人? あ、ニコちゃんの作品のモデルのマコトさんってこと? だよね?
でもその作品は残念ながら真誠さんが読ませてくれてない。恥ずかしいから読ませられないって言うんだ。名前だけのことだから僕は気にしないけどやっぱり恥ずかしいものなのかな。でも、帰ったらさっき貰った本読めるから楽しみだなぁ。
気がつくと真誠さんは読者さんにサインを求められサインをしウサギも書いている。サイン慣れてるよね、これからいつもウサギ書けばいいのに。真誠ウサギ(赤)。ハンコとかもいいよな。
「はい、この方が凪桜王のモデルです!」
いろいろ考えてたら急にニコちゃんが僕の名前を出した。
え? 僕も出演してるの?! よくわからないけどとりあえず頭を下げてみた。
「わああああ! サインください!」
またまたなんだかわからないけど、本とペンを差し出されたから真誠さんのサインの横に名前を書いておいた。僕のサインもらってどうするの? なんの価値があるのかもよくわからないんだけど。
とても興奮して握手を求められ、僕と真誠さんは握手をするとお菓子までもらって、その方は嵐のように去っていった。
「真誠さんのファンなんだね」
僕は真誠さんを肩でつついた。
「違うよ、ニコの小説だよ」
「でもさ、僕も出てるの? それは知らなかったよ、教えてくれればよかったのに」
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