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庭に咲く花、枯れる花(11)(side 真誠)
会議用テーブルの下に折りたたみ椅子を重ね、買い物と挨拶回りから戻ってきた妹1号が戦利品を梱包発送するのを手伝ってから、俺たち四人は会場をあとにした。
「おとうとおかあが、魚屋さんに大皿を持って行って、刺身を頼んでた」
妹2号がニヤリと笑う。
「うんうん、しかも大皿三枚ーっ!」
妹1号が指を三本立てて飛び跳ねる。
「お姉が納戸から久しぶりに3升炊きの炊飯器を出してたし、奴らはやる気だよ」
妹2号がメガネを光らせ、妹1号は浮かれて道の真ん中でくるりと回る。
「焼き海苔もたっくさんっ! 玉子も焼いて冷ましてたし、焼肉とサニーレタスとマヨネーズも買っておいてって頼んであるのーん!」
「手巻き寿司か、悪くないな」
荷物が詰まったキャリーケースの、まるで石臼を挽くようなタイヤ音と共に池袋の街を歩く。
池袋の街は常に人の話し声が聞こえ、人工的な音に溢れ、ビルの壁面に映像がチカチカして、たくさんの人が押し寄せてくる。
「人酔いしそう」
山手線に乗り込んで、俺は吊り革を掴んだ手に額を押しつけた。
「うわっ、お兄、吐く? 吐く?」
妹1号の声に、混雑している車内で俺の周りだけ空間ができ、凪桜さんが寄り添って背中に手を当ててくれる。ありがとう。
「吐かないけど、東京って人が多い」
天井に向かって息を吐き、庭園の池で餌を求めて折り重なる鯉の姿を連想した。
「引っ越して半年も経ってないのに、すっかりナイズされちゃったのねー。昔は『俺みたいなコミュ障が、東京以外の場所に住めるか』って啖呵切ってたのに」
妹1号がやれやれと笑う。
「田舎はいいぞ。東京なんて人の住む場所じゃない」
簡単に持論を覆した俺を妹2号が笑いながら睨む。
「裏切り者め」
「なんとでも言え」
商店街の人の流れすら怒涛の如く感じて、俺は実家へ帰り着くなりダイニング脇の和室に倒れ込んだ。
手探りで座布団を手繰り寄せ、二つ折りにして自分の頭の下へ押し込んで、目の上に手の甲を載せた。
「大丈夫?」
凪桜さんの心配そうな声に小さく頷いたが、起き上がる気力はなかった。
奥さんを旦那の実家へ連れて行って、旦那だけゴロゴロしてて、奥さんは慣れない人に囲まれ気疲れして、家に帰ってからトラブルになるという話を誰に聞いたんだっけ。同期入社の有平かな。
有平はコミュニケーション能力がないからな、凪桜さんなら大丈夫だろうけど。でも居心地は悪いかなぁ。
「ごめん、少し寝かせて」
その呟きが凪桜さんに届いたかどうかを確認するより先に、俺は眠りに落ちた。
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