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第5話

「あなたに会って父が惹かれる理由もよくわかった。リドルとしての記憶がない時でも…俺は貴方に惹かれたのです」 「…」 「父とはしっかり話します。おそらく貴方を取られまいと必死の偽りを貴方に告げたのだと思うから。ご主人様…もう少しだけ待ってくれませんか?」 「僕は…」 「それとも…やめますか?…」 うつ向く秋月。胸が苦しくて… 「ご主人様…また…泣いてる…」 「僕のせいで…君たちの親子関係を壊したくない…」 僕は知ってる…社長がどれだけ手塩にかけて育ててきたのか…間近で見てきたから… 息子のために必死になっていることを知っているから…どれだけ息子を愛しているか…知っているから… 「でも…貴方だけは譲れない…こんなにも恋い焦がれていたのだから…」 「…秋月…違うよ…きっと…お前は他にも恋ができる…そうでしょ?」 「そうです…確かに思い出すまではそれなりに恋もしてきました…でも…こんなにも惹かれる人はいなかった…それってやっぱり貴方を本能で求めていたから…俺は…誰にも…本気になれたことはないんです…本当に…最低なんですけど…きっと俺は記憶が戻らなかったとしても貴方を求めていた…それは自分自身がよくわかります。よく似ているんです。父と好みが」 やっと見られた笑顔はどこかいたずらっぽく…でも苦しさも滲ませていた… 「…夏さん…俺のもとへ来てください。父と話して必ず納得させます…そうしたら…もう…俺は貴方を二度と離さない…」 そういうと強く抱き締める秋月…その胸に顔を埋めた… 本当は嬉しくて堪らない…理由がどうあれ僕を思ってくれて戻ってくるって言ってくれてることが…でも…僕の我が儘でまだ若く未来ある秋月を縛っていいのか?…僕を選ばなければ彼はきっとまた違う人生が送れるのに… 社長との方が年の近い僕が社長の大切な自慢の息子を…息子の将来を潰してもいいのか… 「夏さん…今日は帰りたくない…貴方といたい…いいですか?」

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