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第4話 出発
新横浜駅で新幹線を待つ間、少し時間が空いたので少年の着替えを購入した。
「僕安物で良かったんだけど」
「別に高いものじゃないですよ」
いやでもさあ、と少年は自分の身体を見下ろす。
ベージュのダッフルコートの隙間からは抹茶色のシャツにオフホワイトのVネックセーターが覗き、その下は茶系のチェック模様が入ったパンツに編み上げのショートブーツが合わせられている。
気の進まない少年に代わりすべて岳嗣が見立てた物だ。子供服のブランドに無知な岳嗣は気づいていないがそれなりに値も張っている。
「随分気合いの入ったお出掛け着だね……トータルコーディネートじゃないか……」
「しょうがないでしょう、貴方着替え持ってきてない上に随分着古したもん着てたんですから。これからの事を考えてもこれ位綺麗にしといた方が良いでしょう」
昨日やって来た少年はよく見るとセーターは毛羽立っているわスニーカーは靴底が擦り減りボロボロだわとあまりに不憫な恰好だった。
一般的な子供が着てる服なんてそれ位普通なのだろうが、普段子供と触れ合う事が少ない岳嗣には少々目に余ったのだ。
関東では雪は降っていないが雪国とも称される行き先に向かうのなら尚更相応の準備をしなければならない。彼が着ていた薄手のジャンパーなんて話にもならないのだ。
こうして全身着替えさせられた少年の大人びた上品なコーディネートは完全に岳嗣の趣味だ。そういう恰好が霞に似合うと知っているし、今朝聞かされた『本日の予定』を考えた上の服装でもある。
そして岳嗣はと言うと紺色のタートルネックセーターに黒のロングコート、カシミアのマフラー、革のハードブーツをさらりと着こなしている。長身で普段から身体を鍛えている岳嗣は体格も良い為こうしていると見栄えするのだ。女達からの熱視線も慣れたものだが、今に限っては誘拐犯だと疑われていないか少し心配になる。
「こういうところ君は全く変わっていないね。君って本当に人に買い与えるのが好きだよねえ」
「そうですか? 必要な買い物じゃないですか」
「無自覚かあ」
やれやれと両手を上げて頭を振る少年を見下ろし、岳嗣は軽く眉間に皺を寄せて首を傾げる。
事実、岳嗣自身特に気にした事はなかったものの、岳嗣は気に入った相手に必要以上の贈り物をする習慣がある。離れて暮らす霞に会う時には必ず酒や服飾品などの手土産を持参するし、誕生日となれば必ずブランド品などの高価な贈り物をする。
それはその時の恋人や親しい知人相手であってもそうなのだが、霞に限りそれが顕著に表れるのを岳嗣は勿論霞も気づいていない。
きっと少年が霞でなければ服を買い与える事もなかったのかもしれない。少年のブラッシュアップを完了した岳嗣は満足気だ。
「あ、霞さんが渋るもんだからもう発車しますよ。急ぎましょう」
「もう、君が張り切るからだよ!」
長いコートの裾を閃かせ凸凹コンビは走る。飛び乗った新幹線の中で「後でこれもつけてくださいね」とショップバッグの中から白いマフラーと手袋を出すとあからさまに呆れられたのは言うまでもない。
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