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EpisodeⅩⅩⅨ
やっと立って歩けるようになった。若い人は回復も早いと褒められたら、悪い気はしない。風呂はまだと言われて、温かいおしぼりを3本渡された。
個室なので気にせず全裸になり、そのおしぼりで身体を拭き拭きするのが結構日課みたいになってる。
今日も午前中におしぼりが来たので全裸で、身体を拭き終える。使ったおしぼりをベッドに備え付けのテーブルに置いた瞬間...
ガラッ...
うん、あんまり良い予感はしないが、恐る恐る振り向けば、オレの生尻を凝視するサブと目が合った。
「......」
互いに言葉が出ない。とりあえず、オレは何事も無かったように固まってるサブを無視して、ベッドに置いてあった新しいパンツを履いた。
「しっ...」
し?失礼しましたとか言って、帰ってくのかと思ったら。
「尻っ!」
今はパンツ履いてるんだが...まぁいいやと無視して病院で渡されている前開きのパジャマを着た。
「第一声が尻かよ」
リアルでサブを見ると、ほんとオレより年上だと分かるんだが、ついついゲーム口調。所謂素のオレの言葉が出てしまっていた。
「あっ、わるい...えっと、こんにちは?」
「うん、こんにちは...今日は仕事ないのか?」
時間は10時過ぎで、どう考えてもいつもは来ない時間なんだ。だから、オレも気にせず全裸だったんだし。
「今日は休みを取ったんだ」
「へぇ...」
もうオレも目覚めたんだし、彼女とデートでも行けばいいのに。そんなことを考えてたけどさ、そういやサブはオレのことスキだったと思い起こしたので、口には出さなかった。
ゲームの中での告白だし、あくまでもオレの記憶にある事柄だから、本来はそうでは無い...好きではない確率の方が断然高い。自惚れとかでもない。事実サブは、オレにそう伝えたのだから。
恋の駆け引きとか、恋愛感情とかオレにはないものだし、今も好きかと聞かれれば、嫌いではない。けれど気になってるのは事実...だから時折それを思い出す。
何も無い、点滴がぶら下がってるだけの病室にサブが持って来た花だけがこの部屋を彩ってる様にも思う。
カーテンは橙色で、布団は白いカバーが付いている。その中に青い病院のパジャマを着ているオレは嫌に浮いて感じた。あくまでも感覚の話で他の人がその姿でも気になどならないだろう。
「えっと、悪かった」
「なにが?」
「吉田の生尻拝んだから?」
こいつは...オレになんと言って欲しいんだよ。
「同じ男だし気にしない」
そう答えるのは通常のオレで、その回答に、しょんぼりと叱られた犬みたいにへこむサブ。
少しでも恥ずかしがればよかったかなんて思いつつも、オレにはそう答えるのが精一杯だった。
「俺は気にして欲しい...」
!?
まさかそんなことをリアルで言われるなんて、思ってもなくてオレは思わず口をポカンと開いてサブを見た。
照れくさいのか、視線はカーテンレール辺りをみながら、頬を人差し指でポリポリとかいていた。
その姿を見た時、ありえない程に一気に顔が熱くなった。別になんとも思ってない人に、好きと言われた。それはゲームの中でだったからさほど感情も動かなかったのだろう。
だが...今はまずい。
悟られたくなくて、思わず布団に寝転んでサブに背中を向けた。
「怒ったか?」
不安そうにオレにそう言って肩にポンと手を置かれた時、オレの身体はこれでもかって程に慄いた。
ビクッとハッキリと身体は反応を見せたのだ...サブがどう取るかなんて考える余裕はなかった。オレはただこの赤くなった顔を見せたくなかっただけだし、気づいてしまうナニカを知らないふりでやり過ごしたかっただけだったのに...。
「ごめんな、気持ち悪かったか?」
そう言ってベッドから離れてしまった。オレは自分の中の変な感情と葛藤していて、この時サブがどんな顔をしていたかを残念ながら覚えていなかった。
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