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お助けヒロインの空や警察組織、一般市民に知られることなく、世界征服を企むマッドネスはここで日々密かに実験を繰り返し、街を破壊するクリーチャーを創作している。
当初、だだっ広い実験施設の中で海はよく迷っていたが、訪問を度重ねた今ではお目当てのラボに真っ直ぐ辿り着くことができるようになった。
のろのろ浮遊していた巨大おたまじゃくしを捕まえ、両腕に抱いて、瞬きする目玉つきの壁の間を突き進んでいく。
途中、恐ろしい咆哮やら実験に失敗したサイエンティストの悲鳴、狂的な高笑い、凄まじい爆発音がどこからともなく聞こえてきたが、すでに慣れっこの海は巨大おたまくじゃくしを撫でながら目的のラボを目指していたのだが。
「あらぁ、海クン」
ミニスカナースの出で立ちに網タイツ、極端に高いピンヒールのパンプスを履いたDr.グラマラスが海の前にひょっこり現れた。
「こんにちは、グラさん」
「こんにちは。今ね、クロの奴、実験中なの。よかったら私のラボにいらっしゃい? 豆乳ココア、淹れてあげる」
すっかり顔馴染みになったグラマラスの誘いに海は乗じた。
シーラカンスやサンショウウオ、マンボウが悠々と泳ぐ巨大水槽を背にして彼女と一緒にお茶をした。
「ねぇねぇ、それ、何かしら?」
グラマラスは海が持っていた手提げから覗く、丁寧にラッピングされた紙袋を目敏く発見し、尋ねてきた。
「あ……今日、クリスマスだから……クッキー、焼いてきたんです」
「クッキー!!」
マスカラがバッチシ施されたグラマラスの双眸がぱちりと見開かれ、海は長い前髪の下でパチパチ瞬きした。
クッキーはクロのために焼いてきたものだった。
お裾分けしてもいいですよね。
多めに作ってきたし。
「あら、頂けるの? ありがと、海クン」
ラッピングを解いて星型のクッキーをいくつか手渡すとグラマラスはおいしそうに食べてくれた。
膝に乗っけていた巨大おたまじゃくしにも細かく刻んだのを食べさせてやる。
すると巨大水槽からシーラカンスやオオサンショウウオ、マンボウらが飛び出してきたかと思うと、テーブルセットに集まってクッキーをおねだりしてきた。
遠慮を知らない彼らは食べる食べる……。
よってクッキーは一つ残らず完食された。
ごめんなさい、クロさんには今度作ってきますね。
「グラ、お前、また海を攫ったな」
白衣を翻してグラマラスのラボにやってきたクロは、丸テーブルに散らかるリボンとラッピングの残骸を見るなり、すぅっと黒縁眼鏡の奥で双眸を細めた。
海はそんなこと、まるで気づかなかったけれども。
「行くぞ、海」
そして海を自分のラボへと連れて行き、飼育中の触手ナマコを水槽から取り出し、恋人に放ったわけで……。
現在に至る。
「何で真っ先に俺のところに来ないでグラのラボに行くんだ」
イボイボ触手に弄ばれ中の海は長い前髪の下で涙の溜まった双眸をパチパチ瞬かせた。
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