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「……クロさん、実験中だって聞いたので……」
「それでもグラにはついていくな。他のサイエンティストにも……ああ、何だコイツ、海に馴れ馴れしく懐きやがって」
手術台にしがみついて海を心配げに見守っていた巨大おたまじゃくしをむんずと掴むと、クロはボールを投げるようにして空中へ放り投げた。
「しかも、あれ、何だ」
「……?」
「何か作ってきてただろ」
「……あ、クッキーを……」
「一枚も残ってなかった」
……もしかして、クロさん。
「……それ、やきもちですか?」
海がそう問いかけた途端、クロは、自分が放った触手ナマコもべりっと引き剥がした。
「ひゃっっ」
「……そうだよ、海。その通り。大正解」
触手ナマコを水槽に戻して、服を引き裂かれた海に自分の白衣を被せ、清潔なタオルで粘液に塗れた肌を拭いてやる。
「お前は俺だけのもの」
「……クロさん」
「今度は俺のためだけに焼いてきてくれ、クッキー」
クロが相当強い独占欲を持っていると気づかされた海は、ちょっと、笑った。
「どうした?」
「……ヒロインの空姉ちゃんに手加減してあげるクロさんって、オトナなんだなぁって、そう思ってました。けど……」
「けど?」
長い前髪をかき上げると双子の姉によく似た大きな二重瞼の双眸が現れる。
「そういうところ可愛いです」
「……」
「僕だけにやきもち妬いてくださいね、クロさん」
クロも、笑った。
小柄な海をぎゅっと抱き締める。
「お前には完敗だよ、海」
空中をふわふわ泳ぐ巨大おたまじゃくしが二人の上で旋回している。
おどろおどろしい生物が潜む水槽だらけのラボの真ん中で、お助けスーパーヒロインの弟と、ヒロインの宿敵であるマッドサイエンティストは、禁じられた愛をナイショで確かめ合うのだった。
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