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3-彼らは恋をした
「お前みたいな俗民衆とクロ様は似合わない」
「僕ぁ、ちと目障りなクロへのイヤガラセが大好きでしてねぇ」
マッドネスの秘密地下実験施設にて。
二人のマッドサイエンティストは宙吊りにされた海を見上げて冷ややかな笑みを浮かべる。
海の目の前には不気味な触手生物が浮遊していた。
黒いマントをすっぽり被り、薄ら笑いのピエロじみた仮面をつけ、マントの下からは夥しい肉色の触手を伸ばしている。
触手は海の両腕を頭上で縛り上げ、小さな口にまで侵入し、卑猥に嗜虐的に小さな体を虐げていた。
クロさん、クロさん。
海は恋人の名を胸の内で呟いた……。
ことの発端は数時間前の市街地で起こった。
「きゃああああ!」
「マッドネスだ!」
海が双子の姉の空と買い物に出かけていた先でマッドネスの襲来があった。
世界征服を企む悪のマッドサイエンティスト集団、マッドネスは飼い慣らした実験体で破壊行為を日々繰り返しては財政を脅かすのだ。
彼等の実験体は禁じられた召喚術で魔界から呼び出された魔物とかけ合わせたものばかり。
並みの武器では歯が立たない。
そんなもの達と唯一対等に戦えるのは……。
「海、手伝って!」
「えっ、僕、戦えませんよっ?」
「ばかっ。メイクに手を貸してって言ってんの!」
建造物の向こうでもくもくと立ち上る煙を遠目に、立ち竦む通行人達の間をダッシュで擦り抜け、普段から大荷物の空は公衆トイレへ駆け込む。
トンボ眼鏡にオーバーオールという格好から、大荷物の正体であるヒロインコスチュームに五分で着替えた空のぼさぼさ頭を海は慣れた手つきでツインテールにセットしていく。
その間にも外ではドカンボカンと立て続けに派手な爆音が。
「空姉ちゃん、早くしなきゃ」
「わかってる、だけどすっぴんだとスポンサーが後でうるさくって、あ、グロスとって、それ新色なんだって」
超大手企業がスポンサーにつくお助けヒロインは、宣伝マスコットの役割も担うため、色々と大変なのである。
十分後、大急ぎで今期のイチオシメイクを施した空は森羅万象の力で勇ましく飛び立った。
「海、危険だからあんたは早く帰るのよ」
飛び立つ寸前、空に言われて海は頷いたものの。
どのマッドサイエンティストが来ているんだろう?
もしかしてクロさん……?
二人にはあまり戦ってほしくないです。
二人とも大事な人だから……。
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