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それは一羽の大きなカラスだった。
何だか不吉に思え、剥き出しの配管にとまる漆黒のそれを避けて、海は先へ進もうとしたのだが。
「あっ」
バサバサと飛んできたかと思うとカラスは海の手の甲に噛みついてきた。
そのまま施設の奥目指して通路を羽ばたいて去っていき、海は、血の滲んだ手を擦りながら、改めて通路をとぼとぼ進んだ。
途中、仲良くなった巨大おたまじゃくしが当てもなく浮遊しているのを見つけ、両腕を伸ばして抱き寄せると、巨大おたまじゃくしは傷ついた海の手をぺろぺろ舐めた。
「おたま、ありがとう」
カラスってあんな風に人に噛みつくんですね、僕、知りませんでした……。
轟音やら振動やら悲鳴が延々と響き渡る施設内を迷わない足取りで海は進んでいく。
お目当てのラボまであと少し、というところだった。
「おーい」
海は振り返る。
通り過ぎたばかりの背後に、いつの間にか、クロが立っていた。
「……クロさん?」
緩めた黒ネクタイ、雑に羽織った白衣、そして唯一のトレードマークである黒縁眼鏡。
どこからどう見ても恋人であるその男に海は首を傾げた。
あれ……この人、本当にクロさん……ですか?
何だろう、この違和感。
嫌な寒気が伴う感じ……。
「おいで」
突っ立っていた海の手を引いてクロは歩き出した。
普段は海が通らない通路に逸れて、さらに地下階段を下り、妙に血生臭い、一層おどろおどろしい遠吠えや唸り声がどこからともなく行き交うフロアにやってくる。
腕の中でおたまがブルブル振動している。
震えているのだ。
海は片腕でぎゅっとおたまを抱き締めた。
「おいで」
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