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「お前みたいな俗民衆とクロ様は似合わない」
「僕ぁ、ちと目障りなクロへのイヤガラセが大好きでしてねぇ」
クロウが生やす肉色の触手は手加減なしに海を締めつけていた。
触手の先っぽはイソギンチャクのように細かに分裂していて、口腔に突き入ったそれは海の舌をぬるぬる擽る。
華奢な肢体に服越しにぐるぐるぐるぐる巻きついて、さらに、服の内側へも忍び込もうと蠢いた。
「んぅ~~……んん……っ」
縛り上げられて高々と宙吊りにされた海は身悶える。
クロさん、クロさん。
恋人の名を胸の内で呟きながら。
「クロウ、犯してごらん?」
アイレスは非道な命令を下す。
クロウは仮面を喜色に歪めて触手を波打たせ、さらに我が身から何本も産み生やし、身を捩る海へと……。
その時であった。
分厚い扉が凄まじい爆音と共に打ち破られたのは。
「俺の恋人に何しやがる」
煙と火に包まれた出入り口、肩にバズーカ砲を担ぎ、白衣をあちこち焦げつかせたクロが現れた。
「クロ様!?」
「ノックもなしに爆破だなんて物騒ですねぇ、クロ」
クロにくっついていたおたまが水を吐いて消火に励む中、ラボに入ってきたクロは仲間の二人を睨むよりも先に、宙吊りにされた海を見上げた。
バズーカ砲を無造作に投げ捨てるなり、急な襲撃に硬直しているクロウ目掛け、懐に忍ばせているメスを瞬時に放ち。
鋭い刃先を仮面に命中させた。
「あぁぁぁあ!」
悲鳴を上げたのはアイレスだった。
忽ち触手が力を失い、落下した海を、クロはすかさず抱き止めた。
「大丈夫か、無事か、海」
昼は一言も声を発さなかったクロが、咳き込む海を覗き込み、真剣な表情で問いかけてくる。
海は長い前髪越しに彼を見上げて頷いた。
「……クロ様……」
床に跪いていたアイレスが顔を上げた。
片目を覆う眼帯に鮮やかな赤を滲ませ、涙の如く、頬に一筋の血を滴らせて。
「いいか、よく聞けよ、二人共」と、クロは海を抱き上げたまま、呆然とするアイレスに、飄々と突っ立っている銀に言い放った。
「もう一度こいつを傷つけてみろ、その時は俺がお前らを殺す」
「ひどい言い草ですねぇ、仲間に向かって」
「他人を仲間だと思ったことなんて一度もないだろ、銀」
「うふふ、ご名答」
「クロ様、ごめんなさい、許して」
「その台詞はもう聞き飽きた、アイレス」
クロの激昂した眼差しにアイレスはぐすぐす泣き出した。
「クロ様ぁ~~」
血と涙を流す見目麗しいアイレス。
そんな主人に擦り寄る、仮面がひび割れて模様が不鮮明となったクロウ。
クロの激昂などお構いなしに海を堂々と真正面から眺め回す銀。
舌打ちしたクロは銀の目線を遮断するように海を抱き込むと、彼らを陰気くさいラボに残し、自分の居場所へと足早に引き返した。
「お前のおたまが教えてくれなかったらと思うと、ああ、ぞっとする」
空中を泳いでついてくるおたまをクロの肩越しに見、海は「ありがとう、おたま」と、小さく囁いた。
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