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3-7
大小様々な水槽が壁際を埋め尽くす、アクアリウムを連想させるクロのラボにて。
「お前がヒロインの弟だってバレてはいないみたいだな」
「……はい」
「バレてたら、もっとえげつない手段に出ただろうな、あいつら」
「えげつない……ですか」
クロウに噛まれた海の手に少々大袈裟な絆創膏を貼ると、クロは、清潔なタオルをとってきた。
病室にあるようなパイプベッドにちょこんと座る海を丁寧に拭き始める。
服や皮膚に付着したクロウの粘液をせっせと取り除いていく。
「だけど、どうしてまた、こんな夜中に突然来たんだ?」
膝上にやってきたおたまを撫でながら、海は、クロの問いかけに答えた。
「クロさん、今日、僕を助けてくれたでしょう?」
「ああ」
「そのことで、あの二人に責められていないかなって、気になって」
「ふぅん」
俺のために怖い思いさせて悪かったな。
クロはそう呟いて海の髪をタオルでわしわし拭き始めた。
視界に長い前髪が入り込むので海は俯きがちにぎゅっと目を瞑る。
「……ここはマッドネスのアジトだから」
「ん?」
「何が起こるかわからない場所だから、僕、いつも危険は覚悟の上で、ここに来てます」
「……」
「確かに怖かったけど、カラスに噛まれた時もびっくりしたけれど」
クロさんに会えたから、僕、もう平気です。
前髪が乱れて普段は隠されている可憐な双眸がクロを見て微笑んだ。
双子の姉と一見して瓜二つ。
しかしその大きな瞳は、空にはない儚さや脆さを湛えつつ、芯の通った揺るぎない強さも奥底に秘めていた。
クロはしばしその微笑に視線を奪われ、そして。
「……クロさん?」
タオル越しに海の小さな顔を挟み込むと、さらに距離を縮め、じっと海を見つめてきた。
見る間に海は真っ赤になった。
不慣れな様子丸出しで、ぎゅっと、必要以上の力を込めて目を瞑る。
クロは小さく笑って海にキスした。
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