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「君は目を開けたまま寝れるんですねぇ?」
現と夢の間をぼんやり行き来していたクロは、不意に真横から聞こえてきた声にビクリと肩を震わせた。
目をやれば、自分が頬杖を突いていた手術台にDr.銀が足を組んで腰掛けていた。
……こいつ、また勝手に。
「お疲れみたいですねぇ、そんな時には、ぜひこれを」
手術台の真ん中には一枚の皿が。
ヘドロっぽい、スライムみたいな、独りでにプルプル揺れる、異物が。
「何だ、これ」
「プリンですよ?」
「ふぅん、これがプリンってやつか。銀、お前、ちょっと味見してみてくれるか」
「ご冗談を」
僕ぁ、アマイモノってやつが苦手なんですよ。
恋愛にしたって、そうですよ。
他人の色恋、こんな風に壊してやりたくなるんですよ。
ぶちゅっ
銀は添えていたフォークでプリンを突き刺した。
「んんぎゃぁ」
「このプリン、生きてないか?」
「へぇ? 本当ですかぁ?」
ぶちゃぶちゃぶちゃっ
薄笑いを浮かべながらフォークで絶叫するプリンを突き刺し続ける、そんな変態銀の日常茶飯事的プチ嫌がらせに、クロは長々と付き合わされる羽目に……。
「クロさん、こんにちは」
奥のパイプベッドで仮眠をとっていたクロは、その声を聞いて身じろぎ一つした。
「風邪、引きますよ?」
横向きに寝そべる白衣を纏ったままの体が、ふわりと、暖かな温もりに覆われる。
「おたま、クロさんが寝てるから静かに遊んでね?」
「ぷぎゃ」
薄目を開けると天井際を泳ぐおたまが。
ヒロインがいる家でヌイグルミの振りをしているため、ストレスが溜まっていたのだろう、ぐるぐるぐるんぐるん猛スピードで飛び回っていた。
こうも活発なこいつを見るのは初めてだな……。
視線を下ろせば、パイプベッドの端にちょこんと腰掛けた、華奢な背中。
宙を泳ぎ回るおたまを心配そうに見つめる横顔に自然と笑みが零れた。
そっと腕を伸ばして、スプリングの上に置かれていた手を、握ってみる。
「あ……クロさん」
起こしちゃいましたね、ごめんなさい。
「いや……いいんだ、おいで、海」
スニーカーを履いたままの海をブランケットの中に招く。
海は照れながらもクロの懐に潜り込んできた。
ああ、暖かい。
やばいな、寝そうだ……。
「クロさん、寝ていいですよ」
「……せっかくお前が来てくれたのに」
海は首を左右に振った。
細く長い指で頬をくすぐると、幸せそうな笑い声を紡いで、愛しい恋人も目を瞑る。
……そうだな、一緒に眠ろうか。
……起きたら、すぐそばに、いてくれるなんて。
「どっちが夢なのかわからなくなりそうだな……」
幻かと思えるほどの幸福に満たされ過ぎて。
……俺は、こんな、ふやけた奴だったかな……。
「おやすみなさい、クロさん」
すぐに寝入ったクロの寝顔を見つめて海はそっと笑う。
起きたら、手作りのガトーショコラ、一緒に食べましょう。
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