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5-Dr.アイレスがクロウをつくった理由

クロ至上主義、ほかは屑、俗世は灰。 そんな極端思想にあるDr.アイレスのラボは陰惨極まりないのかと思いきや……。 「今日も咲いた咲いた、うふふ」 四方どこまでもピンクのお花、お花、お花。 天井まで伸びた蔓にはピンクの薔薇、薔薇、薔薇。 「水をおやり、クロウ?」 見目麗しき眼帯少年はペットの触手生物クロウに命じる。 黒マントをすっぽり纏うクロウは肉色の触手で如雨露を四、五個ほど掴み取ると水遣りに勤しむ。 詰襟に白衣を整然と纏っていたアイレスは、ラボのほぼ中央にでんとある天蓋フリルつきのベッドにうつ伏せとなり、見飽きないスクラップブックを眺める。 写真は全てクロ、クロ、クロ。 「はぁ、クロ様……」 猫じみた片方の瞳は恋焦がれる余り、涙までうっすら浮かべていた。 主の涙に気づいたクロウは滑るように虚空を走ると天蓋を潜ってベッドにやってきた。 ピエロの仮面は両目の位置に?を二つ、つけている。 自分を覗き込むクロウをちらりと見、アイレスは、舌打ちした。 美貌の眼帯少年の舌打ちというのも迫力がある……。 「クロウ、お手」 掌を差し出すと触手を一本、ねちょりと置いてくる。 「クロウ、死んだフリ」 そう命じれば引っ繰り返って触手をだらりとベッド下に投げ出す。 「クロウ、ミミック」 擬態しろ、というアイレスの命令にもクロウは従う。 一瞬にしてカラスと化してベッド端にちょこんととまる。 アイレスはベッドに座り込むと、もう一度「ミミック」と同じ命令を口にした。 するとクロウは一瞬にして人型となった。 アイレスの前に素っ裸の男体として、主と同じように、座り込む。 アイレスはさらなる不機嫌そうな舌打ちを披露した。 「ちっとも……ちっっっっともクロ様に似てやしない!!」 ヒステリックに喚いたかと思うと落ちていた仮面をクロウの顔にバチンと叩きつける。 クロウは慌てて仮面をとりつけ、ご機嫌を伺うように小首を傾げてみせた。 「ああんもう、クロ様の髪の毛一本、確かに投入したのにぃっっ! こいつ一体どこのどいつなのっっ!」 「ごめ……ん、なさ……い、ごしゅじんさま……」 「声もまるで似てない!!!!」 クロを模造したつもりが、どこでどうメソッドを間違えたのか、人型ミミックは赤の他人。 黒縁眼鏡をかけさせてみても、やはり、どう足掻こうとクロとはまるで別人。 アイレスはこの顔を見る度にぎゃーぎゃー泣き喚くのだ。 「ごめ……なさぃ、くろう、わるいこ」 骨張った筋肉質、つまり無駄な贅肉一つない美しい体を窮屈に縮こまらせて、茶髪のクロウは謝る。 仮面はもちろん、困り顔。 「ミミックでもいいから模造クロ様とイチャイチャしたかったのにぃぃい~」

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