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マッドネスの秘密地下実験施設。 クロが所有するラボは壁際を大小様々な水槽に占領されている。 そこはまるでアクアリウム。 おどろおどろしい生き物が息を潜めている水槽もあれば、中には……。 「海、見てごらん」 クロに手を引かれて海はその水槽の前に立つ。 中では海蛇が砂利に身を沈めて眠っていた。 クロがガラスをこんこん叩くと、頭を擡げ、舌をちろりと出す。 燐光を宿すきめ細やかな鱗が美しい。 クロは蓋を開くと臆することなく海蛇を取り出した。 海蛇は噛みつくことなくクロの腕に絡みつくように身をくねらせ、そして、手の先まで移動したかと思うと。 その鱗に包まれた体から黒い翼を産み生やした。 「わぁ……」 海はさらに美しさを増した海蛇に、いや、小さな龍に見入った。 水滴を散らしながら翼を緩やかに翻し、翼龍はクロの手から飛び立つと、天井を悠々と旋回し始めた。 「すごいです、クロさん」 「俺の実験体37号だ。昨日、創造したばかり」 クロの隣で海は翼龍を目で追うのに夢中になった。 すると小さき龍は海の肩に着地した。 びっくりして、しかし怯えることなく、海は「きゅるる」と鳴く彼にそっと笑いかける。 翼龍は舌先でちろりと海の頬を撫でた。 「はい、ここまで」と、いきなりクロが翼龍を捕まえた。 「きゅるるるるっ」 「あ、大丈夫ですか?」 「平気だ、半分魔物だしな。炎にだって耐性があるし切り刻んでもすぐにくっつく」 少々どぎつい説明をしながら水槽に実験体をぼちゃっと戻して蓋をする。 まだガラス越しに海に興味を示している彼に一瞥くれて、自分で誘っておきながら、海を直ちにその場から引き離した。 「クロさん?」 「お前はよく懐かれるな、海」 奥にあるパイプベッドまで連れて行くと海を座らせて、その隣に自分も座り、クロはぽつりと愚痴った。 「今日まだお前と手しか繋いでないのに」 あいつに先を越された。 長い指が海の濡れた頬をそっとなぞる。 海はくすぐったそうに一瞬首をすぼめ、頬を紅潮させると、自らクロに身を寄せて。 その頬にちゅっとキスをした。 「クロさん、今日はありがとうございました」 僕、とっても嬉しかったです。 クロの肩に寄りかかり、安心しきった様子で身も心も委ねる。 小柄な海の肩を抱いて、クロも、全てを捧げられる唯一の温もりにそっと口づけた……。 好きです、クロさん。 これからもずっと一緒に、海。

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