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11-クロが海を忘れてしまって
「お前、誰だ?」
海は凍りついた。
胸に抱きしめていたおたまを無意識にぎゅうううっとしてしまい、胸元で「ぷぎゃっ」と小さな悲鳴が上がる。
クロと約束していたはずの日時、秘密の抜け穴を通って秘密地下実験施設へやってきた。
ところがクロは専用ラボまで訪れた海を見下ろすなり、そう、口にした。
海はわけもわからずに通路で硬直し、クロもクロで扉を開いたまま突っ立っていたら。
「ああっ!! 海クン!!」
ミニスカナース姿のグラマラスがピンヒールをカツカツ言わせて通路を駆けてきた……。
「クロは今朝こいつに噛まれちゃったのよ」
グラマラスの専用ラボにて。
巨大水槽前に設置されたテーブルセットにちょこんと座った海は、グラマラスが掲げたケージの中味に目を丸くする。
動物バラエティ番組で見たことのあるバク、あれをぎゅっっっと小さく縮めたような生き物がこっくりこっくりしていた。
「これ……バクの赤ちゃんですか?」
「違うわ、これ、魔界から召喚した魔物なの」
「もしかして夢を食べちゃう……」
「違うの、こいつは人の記憶を食べるの」
こいつに齧られるとある記憶を失うのよ。
「ある記憶……?」
海の向かい側にはクロが座っていた。
黒縁眼鏡をかけ、黒ネクタイを緩め、白衣を雑に羽織っている。
見た目はいつもと何も変わらない。
ただ、海を見る目つきは他人行儀で。
冷たいわけではないのだが温度がまるでない。
普段なら温かな愛情を感じられるのに。
「一番大切な人の記憶を失うの」
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