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11-2
「大切な……」
「つまり海クンに纏わるすべての記憶が今のクロにはないの」
海は再び凍りついた。
腕の中にいたおたまが「ぷぎゃー!」と本日二度目の悲鳴を上げ、グラは慌てて説明を付け足した。
「でもね! 記憶を失うのは噛まれてから二十四時間、つまりたった一日だけ!」
一日過ぎればちゃんと取り戻すわ。
そして、今度はコイツに噛まれて記憶を失っていたことを忘れるの。
「……何だか複雑です」
「そうね、でも明日になれば元通り、だから悲しまないで? ほら、豆乳ココアでも飲んで落ち着いて?」
「……はい」
「こいつが俺にとって一番大切?」
海の向かい側でクロがぽつりと呟いた。
海は口をつけようとしていたマグカップを途中で静止させ、クロを見た。
「その魔物が記憶喰いだってのは知ってる。グラが捕獲をしくじって、俺を噛んだのも確かだ」
そう言って白衣の袖を捲ったクロの手首にはくっきりと歯形が。
「ただ、お前が俺の一番大切な……?」
海の記憶がないクロは不思議そうに首を傾げて当人を見つめた。
海は、すっかり、しょ気た。
自分の身に危険が及ぶかもしれない、そんな覚悟はしていたけれど。
まさかクロさんの身にアクシデントが起こるなんて想像もしてなかったです。
「……僕、帰りますね」
しょんぼりした海はイスから立ち上がると、グラマラスとクロにぺこりと礼をし、元気のない足取りでラボを去ろうとした。
その手をぱしっと掴んだのは。
「そんなに落ち込むな」
不思議そうに繁々と海を眺めていたクロ本人に手首を掴まれて、海は、戸惑いがちに彼を見上げた。
クロは海の頭を雑な手つきで撫でながら提案する。
「今からデートするか」
「え……?」
「お前を忘れた不甲斐ない俺からのプレゼントだ、何でもしてやる、えっと……カイ?」
海は不思議な気持ちでクロに改めて名前を告げた。
「はい……僕、海です、クロさん」
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