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9-銀の飼育日誌②

「あら、君は」 みるくと名づけたばかりの猫耳魔物を抱いてラボに帰ろうとしていた銀は、配管だらけの薄暗い通路で、足を止める。 銀の視線の先には長い前髪で顔の上半分を隠した小柄な少年がいた。 マッドネスではない。 最近、このアジトに頻繁に出入りしている、あのいけ好かないクロと恋仲にある一般市民だった。 「こんにちは」 以前、クロを騙って手酷い目に合わせようとした銀に、少年は挨拶してきた。 銀が真正面までツカツカやってくると、ちょっと身じろぎしたものの、逃げ出そうとはしない。 ただ、腕の中に抱かれている巨大おたまじゃくしは小生意気にも威嚇してきた。 「ぷしゃー!」 「あ、おたま……」 「こんにちは、クロと逢引のお時間ですか?」 銀はゆっくりと微笑んで少年を見下ろす。 「あんなののどこがいいのか、僕ぁ、さっぱりわかりませんねぇ。顔ですかぁ? それとも夜の営み?」 「えっ」 「ああいうすかした男に限って絶倫遅漏のど助平だったりしますからねぇ。君、そんなちっこい体で大変ですねぇ」 「あの」 「あ、そうだ、今から見学させてもらいましょうかね。あのいけ好かない男がどんな風に薄ら寒い愛を囁くのか、あ、想像しただけで胸糞悪くなりますね。君、本当にご苦労様ですねぇ」 「えっと」 「うみゅ」 銀の腕の中で寝かかっていたみるくがもぞもぞ動いた。 ぱちりと目を開くなり、嬉々として少年にセクハラをはたらいていた銀に、笑いかける。 「みゅー」 「あら、目が覚めましたか、みるく」 「……その子、銀さんの子供ですか?」 「えぇ? お馬鹿なことを仰いますねぇ?」 「ぷしゃー!」 「そのおたまじゃくしもどき、さっきからどうして僕を威嚇するんですかねぇ、心外です」 「あの、とっても可愛いです、撫でてもいいですか?」 「はいどうぞ」 少年は銀の承諾を得ると小さな手で小さな頭に触れた。 みるくはぐるりと銀の両腕の中で寝返りを打ち、丸々した瞳で少年を目にする。 「わぁ……」 「そのおたまじゃくしもどき、くっつけないでくださいよ、ばっちぃ菌が伝染りそうです」

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