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なんなら抱いてみます? 銀は膨れっ面の巨大おたまじゃくしを少年の許可もなしに勝手に取り上げて天井に放り投げると、代わりに、か弱そうな腕の中にみるくを預けた。 裸電球にじゅっと頭を焦がした巨大おたまじゃくしを一瞬気にした少年だったが、みるくの可愛さに、すぐに口元を綻ばせた。 みるくは大人しく抱かれている。 先ほど、グラマラスが抱っこしようとしたら怖がっていたのが嘘のようだ。 「よいしょ」 いくら幼児体型といえども小柄な少年には重いのだろう、彼は何度もみるくを抱き直した。 それでもみるくは大人しい。 頭から一筋の煙を上げる巨大おたまじゃくしが少年の肩にとまって、こちらも珍しそうにみるくを眺めている。 マッドネスのアジトでは珍しい、なんともほのぼのした光景であった。 「じゃあ、そろそろ、僕行きます」 少年は礼を言って銀にみるくを返した。 「また抱っこさせてもらってもいいですか?」 「ええ、そんなおたまじゃくしもどきより断然みるくの方が可愛いのでしょう、わかりますよ」 巨大おたまじゃくしが銀に向かってぴゅっと水を吐いたので、少年は慌てて黒い塊を抱え込むと、わざわざぺこりと頭を下げた。 クロのラボへ向かう少年とは反対の方向へ、血塗れの白衣を翻し、銀は進む。 あの少年、不思議ですねぇ。 無条件でみるくに懐かれた。 体質的な何か、関係しているのでしょうか。 そういえば誰かに似ているような……。 「まま、まま」 みるくに呼ばれて銀は視線を落とした。 「まーま」 ぎゅっと抱きついてきたみるく。 銀はその背中をぽんぽん叩き、あやしながら、どんよりとした陰気臭いフロアを突き進む。 嗜虐的唇で子守唄を口ずさみながら。 「みるくは猫耳魔物です~寝んねしないとほにゃららのえさ~だから寝んねしないと~ほにゃららのエサ~……」

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