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銀ははっとした。
自分が通ってきたばかりの曲がり角からみるくが顔を覗かせていた。
油断大敵とは正にこのことか。
みるくに気を取られた銀は鮫の二撃目をもろにその身に食らってしまった。
右肩に焼けるような痛み。
白衣がさらに赤く染まる。
片腕持っていかれる、一瞬危惧した銀だが、それは何とか免れた。
ぶん投げられて壁に背中を強打する。
そのまま、ずるずる、フロアに崩れ落ちていった。
まずいですね、出血がひどい。
僕としたことがしくじりました。
体内から血が急激に失われていくショックで途切れそうになる意識を、銀は、何とか繋ぎ止めると。
三撃目の攻撃態勢に入っている鮫からみるくへ視線を移動させた。
銀縁眼鏡が落ちているので顔がはっきりわからない。
震えているようだ。
ああ、また怯えさせてしまった。
私は貴方を怯えさせてばかりですね、みるく?
「みるく……逃げなさい?」
「まま?」
「はやく……」
不思議ですね。
男の僕にも母性本能というものが備わっていたなんて。
「ふごおおおお!!」
鮫は雄叫びを上げて出血多量中の銀に止めの一撃を……。
みるく、すみませんね。
二度も「母」なるものを貴方から失わせてしまって。
次の瞬間、びりびりと銀の全身に伝わった衝撃。
だがそれは直接的なものではなかった。
銀と鮫の間に誰かが立ち塞がっている。
銀を噛み砕こうと開かれた上下の顎を掴み、進撃をその場で食い止めている。
しかもその誰かは鮫よりも勝る力を持っていた。
めきめきめき!!
「ふごぉ!!??」
顎の骨を砕かれて鮫は悲鳴を上げた。
泣きながら直ちにその場から退散する。
瞬きした銀は運良くそばに落ちていた銀縁眼鏡を左手でとると、その誰かを、鮮明になった視界で目の当たりにした。
ぴょこんと突き出た猫耳。
長い尻尾が揺れている。
ほぼ外気に露出した体は暑苦しくない程度の見栄えよき筋肉に覆われていた。
股間には今にも破けそうなピンク色の星柄の生地が。
誰かさんはくるりと振り返った。
立派な体格をした青少年は大きな双眸で、今にも泣き出しそうな顔で、銀に向かって叫んだ。
「まま!!!!!」
嘘でしょう?
これが貴方の真の姿ですか、みるく?
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