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「みるく」
銀が名を呼んでもみるくは反応しない。
ぎりぎりぎりぎり奥歯を鳴らし、一歩、クロに近づく。
クロは背後の少年を守りきるため、片腕を防御の盾とし、姿勢を低めてメスを翳した。
銀は、大きく、息を吸い込むと。
「みるく!!!!!!!!!!」
フルボリュームで名前を呼ぶのと同時に思い切りみるくのほっぺたを抓った。
「ふぎゃぁぁぁっっ!? あっまま! ままぁ!」
みるくはいきなりいつものみるくに戻った。
ずっと腕に抱いている銀にすりすりし、クロを睨み、喚く。
「あいつきらい!! あいつきらい!!」
「ええ、あれは絶倫遅漏のど助平といって、触ったらバイキンがつきますからね、近づいたら駄目ですからね」
「おい、何を勝手な……」
「クロさん、それ、仕舞いましょう?」
少年の言葉にクロは渋々メスを元の場所へ仕舞った。
緊張状態が緩和されたことを肌身でもって確認した末の、休め、だった。
手加減なしに抓った頬がみるみる赤くなっていく。
銀はその腫れを撫でてやりながら、思う。
やはり僕の危機的状況に従ってこの子は自身を変化させているようですね。
コントロールしなければ。
この子自身を下手に傷つけさせないためにも。
「みるく、痛かったでしょう、すみませんね?」
「へーき、みるく、へっちゃら」
攻撃色をなくして、頬の痛みでちょっと潤んだ双眸に微笑みかけ、銀は。
少年が寄り添うクロを見て嗜虐的唇を吊り上げた。
「先ほどのお言葉、そのまんま、君にお返ししますよ?」
そうして二人をその場に残してグラマラスのラボへ向かう。
去り際、みるくは少年に「またあたまなでてー」と言い、クロにはべえっと舌を出した。
「随分と物騒なペットだな」
「ペットじゃないです、きっと、もっと大切な……」
クロと少年の会話が聞こえた銀はみるくの腕の中で目を閉じた。
この子は僕の子供でもペットでもない。
みるくは僕の何でしょう。
……僕はみるくの何でしょうか?
「ままーまたおねむ?」
「……いいえ」
「ままーままー」
「何ですか?」
「ぜつりんちろーってなーに?」
「あの、クロさん、前にも言われたんです、ぜつりんちろうって何ですか?」
「……。今からラボで教えてやるから」
「ほら、ああいうむっつりのことを言うんです」
「なるほどー!」
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