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18-海がクロを忘れてしまって
「貴方、誰ですか……?」
クロは凍りついた。
この世の全てが音を立てて崩れ落ちていくような、そんな錯覚に脳内を侵食される。
お前が俺のことを忘れてしまうなんて、海。
つまりはまたグラマラスがやらかしたのだ。
魔界から召喚した、大切な記憶を喰ってしまう魔物を取り逃がした結果。
今回は被害者が二人出た。
いや、一人と一体と言うべきか。
「おたま、僕のこと思い出せないの?」
海を現在の主としていたはずのおたまはクロのラボに置かれた水槽にとぷんと浸かっている。
海が近寄っても素っ気ない。
それもそのはず、おたまも記憶喰いの魔物に噛まれてしまったのだ。
「グラさん、おたまはずっとこのままなんでしょうか……」
「いいえ、記憶を失うのは噛まれてから二十四時間、つまりたった一日だけ! 一日過ぎればちゃんと取り戻すわ。そして、今度はコイツに噛まれて記憶を失っていたことを忘れるの……ん、これ、デジャブ?」
姿形がバクによく似た小さな魔物が眠るケージを片手にグラマラスは心配顔の海に説明してやる。
二人の背後に立つクロ。
その眼差しは海の横顔に片時も外されることなく注がれている。
黒縁眼鏡越しの途切れることがない視線に、当然、海は気づいていた。
戸惑いがちに、ちらっと、クロを肩越しに窺ってくる。
ああ、お前がそんな風に俺を見るなんて。
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