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クロと水辺に並んで腰を下ろしていた海が手を叩くと、水遊びをやめ、おたまは現飼い主の元まで飛んでやってきた。 ぷよぷよした頭を撫でてやると「ぷぎゃ!」と嬉しそうに鳴く。 すっかり海に懐いたおたまはそのほっぺたにすりすり擦り寄ってきた。 「海、冷たいだろ?」 「平気です、気持ちいい。おたま、すごいね、僕も今度乗せてね」 「ぷぎゃぎゃ」 ぶかぶかの白衣で冷気を遮った海はおたまを撫で続ける。 猫のようにごろごろするおたま。 すると。 クロは不意に海の長い前髪をかき上げた。 「もっと俺にも構ってくれ、海」 双子の空にそっくりな、可憐なる大きな双眸が驚きの色を浮かべてクロを直視した。 「……あ、クロさん」 クロは海の懐に潜り込もうとしていたおたまをむんずと掴み、放り投げた。 顎にそっと指をかけられて、赤面しながらも、上向かされた海はぎゅっと目を瞑って……。 だがなかなかクロはやってこない。 それどころか妙な声が。 「う゛」 目を開いた海の視界に写ったのは、怒ったおたまに割り込まれ、ぷよぷよ頭に口づけたクロの強張り顔だった。 「うえ! ぺっぺっ! お前、元飼い主に何たる仕打ちを!!」 「ぷぎゃー!」 「け、けんかしないでください」 「海、それ、持ってきてたっけ?」 朝食の時間、卵かけご飯四杯目をかっ込んでいた空は向かい側に着く海に首を傾げる。 海のお膝にはぬいぐるみのふりをしたおたまが。 「うん、持ってきてたよ」 「ええ? そうだっけ?」 「あ、ほら、空姉ちゃん、デザートの杏仁豆腐、あげる」 「やたぁぁぁ!!!!」 すべてを忘れて杏仁豆腐に飛びついた空に海は胸を撫で下ろした。 結局、クロさんは、おたまの機嫌を損ねて帰り道の乗車(?)を拒否されてしまった。 朝一の電車に乗って、乗り継ぎの連続で、帰ることになった。 疲れ果てたおたまは小さないびきをかいて眠っている。 「ぷぎゅぅぅぅ~……」 「海、食べながら、お腹鳴らしてるの?」 「しょ、消化してる音だよ?」 クロさん、帰ったら、真っ先に会いに行きますね。

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