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「ままーままのめがね、へーん」 銀縁眼鏡は外し、ぐるぐると渦巻きの柄がうっすら入った丸眼鏡で常に妖しげに濡れた光を帯びる眼を隠して。 絹糸のような長い銀髪はあべこべに巻いた襟巻の内側に入れ込んで。 もっさい半纏、芋ジャー、とどめに下駄。 まるで大昔の苦学生のような姿だ。 ここまで来ると変装というより悪乗りコスプレだ。 本人は至って真剣に変装しているつもりであり、確かに、血塗れ白衣姿でヒロイン相手にゲテモノクリーチャーを放つDr.銀だとは誰も気づいていなかった。 「みるく、何が食べたいですか? 甘いもの? 辛いもの?」 「ままの好きなものー」 食に関心のない銀はそう言われると困ってしまう。 とりあえず適当に目についた飲食店を転々と移動してみる。 みるくは何でも「おいしいおいしい」と食べた。 魔方陣から吊り上げたばかりの貴方はほにゃららの肉塊を食べようとはしなかった。 あの頃の貴方はとても小さかった。 それが今はこんなに立派に成長して。 ドラゴンという美しい完全形態をもつ、純粋で、聖なる、穢れなき結晶。 「みるく、好きなだけ食べなさい?」 「みるく、好きなだけ、たべるー」 喧騒が貫く雑踏の中で彼は不意に立ち止まった。 とても懐かしい匂いを感じた。 純粋で、聖なる、穢れなき香りを。 「あーぱぱー」 彼を見てみるくははっきりそう言った。 渦巻き眼鏡越しに銀も彼を見た。 急ぎ足で行き交う人々の狭間に一人だけ佇む男。 長身に三つ揃いのスーツ、コートを羽織り、どれも深みある黒に統一されている。 暖かそうな差し色のマフラー。 オールバックのプラチナブロンドが冴え冴えとした雰囲気を高めていた。 「アマラントス、久し振りだね」 彼はみるくの本当の名を口にして、それは麗しく、笑った。

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