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ビル影の向こうを報道ヘリが騒がしく飛び回る中、伸ばした腕の中へ帰ってきたみるくに、銀は束の間言葉を失った。
みるくは最初に出会った頃の姿に戻っていた。
小さな、小さな、猫耳魔物のみるくに。
両腕の中にすっぽり簡単に包み込める持ち運び楽々な小サイズに。
「……貴方、どうして……」
「うみゃー」
怪我一つないすっぽんぽんのみるくは着膨れ銀の半纏の内側へ潜り込もうと、もぞもぞ動いた。
いつ付近に迫るかもわからない報道ヘリの死角へ身を隠すのも疎かに、銀は、襟巻と半纏を速やかに脱いだ。
すっぽんぽんみるくに襟巻をぐるぐる巻きつけ、半纏で包み込んで、抱き上げる。
さぁ、死角へと、回れ右をしたら。
いつの間に真後ろにイヴレスが立っていた。
結ばれていない絹糸の如き銀髪が風に舞う。
常に濡れた光を帯びる妖しげな双眸と、嗜虐的唇が冷えた夜気に淡く煌めく。
そして芋ジャーと下駄。
「私は君の何を見ていたのだろう、しろがね」
芋ジャーと下駄は都合よくシャットアウトし、イヴレスは、明らかにこれまでと違う眼差しで銀を見つめてきた。
心を覗き込んでいたくせに、素顔にはまるで気づかずに、大昔苦学生風の見た目をそのまま受け入れていたイヴレスは囁くのだ。
一瞬にしてその胸の上で眠りについた我が子を大事そうに抱く銀に。
「私の花嫁になってほしい、しろがね」
……なんですか、このえろおやじ。
……うざいんですけど。
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