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20-マッドネスに夢で会えたら
雪の降り積もる森。
まるでおとぎ話の舞台であるかのような真っ白な世界。
大人しい狼や無邪気に飛び跳ねる兎、のんびりトナカイ、木の実をたくさん頬張ったリス。
風に舞う粉雪がもこもこしたみんなの冬毛を彩っている。
「わぁ……」
雪の森で思い思いに過ごしている動物達を目の当たりにして海は感動した。
長い前髪の向こうで可憐なる双眸を大きく見張らせ、瑞々しい唇を綻ばせる。
見るからに凍てついた冬の森の中で海が纏う防寒グッズはダッフルコートのみ。
マフラーも手袋も身につけていない。
海は凍えるでもなく平然と雪原をさくさく進む。
それもそのはず。
ここは夢の中なのだ。
ただし海の夢ではない、この夢の持ち主は――
「おーい」
のんびりしているトナカイに触ろうとしたら聞こえてきた呼び声。
振り返った海の視線の先には普段と同じ黒ネクタイに黒縁眼鏡、白衣を無造作に羽織ったクロがいた。
一面を覆いつくす雪の光沢を浴びて眼鏡のレンズが妙に光って見える。
クロも雪原をさくさく進んでトナカイの隣に佇む海の真正面までやってきた。
「こんにちは」
……あれ?
……この人、本当にクロさん?
不可思議な既視感に胸を蝕まれた海は首を傾げる。
白衣の裾を音のない風にぱたぱたと翻しながら、クロは、海の頬に触れようと手を伸ばす。
すると。
のんびりしていたはずのトナカイが意外な俊敏さで二人の間に割って入ってきたではないか。
「……トナカイさん?」
「可愛くないですねぇ、角、引っこ抜いて差し上げましょうか」
あ。
この人、やっぱりクロさんじゃない――
「海!!」
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