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再び名前を呼ばれて海は振り返る。 視線の先にはこの夢の持ち主である本物のクロが立っていた。 腕に何かを抱えている。 「キュー」 真っ白い、ふわふわした、愛くるしい鳴き声を出すゴマフアザラシの赤ちゃんによく似たソレ。 クロが魔界から召喚した魔物だった。 ソレを抱いて共に眠りにつき、すやすや睡眠中のソレに他人が触れると、抱いている人間の夢にお邪魔することができるという、不思議な媒介夢見妖魔だった。 「海、こっちへ」 愛らしい夢見妖魔を脇に抱えたクロ、海の隣に行き着くと愛しい恋人を背後に隠し、自分自身と対峙した。 「なんでお前がここにいる、銀」 そう。 偽クロの正体は如何わしい術で以前のように変身を遂げた銀だった。 「君が夢見妖魔を手に入れたとお喋りが馬鹿長いグラマラスから聞きまして」 「……ちっ」 「ラボに伺ったところ、ベッドでこの少年と眠っていたので、この絶倫遅漏のど助平はどんな破廉恥な夢を見るのかと興味が湧き、接触してみた次第です」 「……」 「そうしてお邪魔してみたらば、うふふ、なんてメルヘンな、うふふふふ」 「……今からその脳天にショックを与えて無理矢理目覚めさせてやる」 クロと、クロに変身した銀を、海は困ったように何度も見比べた。 「クロさん、ケンカしないでください」 「海、お前は動物達と遊んでいろ」 「そういえば絵本がたくさんありましたねぇ、その影響ですかねぇ、うふふ」 「……」 「あ、クロさん、メスを出したら駄目です」 「キュー」 片腕に愛らしい夢見妖魔、片手にメスを翳したクロ。 すると偽クロ銀も白衣の袖口からメスを滑り落とし、不敵に構えてみせた。 すると、そこへ。 「ままままっままーーーー!!」 雪原をざっくざっく突進してきたかと思うと偽クロ銀の背中に抱きついてきたものが。 大サイズの猫耳魔物みるくである。 囚人服じみた黒白ボーダーのツナギ姿で、真っ黒猫耳をぱたぱたさせ、珍しく呆気にとられている偽クロ銀の背中に額をごしごし擦りつけた。 「……みるく、貴方、どうして」 「まーま、まー……!!!???」 同じく呆気にとられていたクロと海は、偽クロ銀に抱きついていたみるくの顔にれっきとした驚愕が走るのを目撃した。 そりゃあ、そうだろう。 匂いは銀なのに、顔は嫌っているクロだ。 そりゃあ混乱するだろう。 「やだーーーーー!!!!」

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